ズボっ
「ととっ」

道なき道を歩いているせいか、辺り一面に広がる白い氷の結晶に足を捕られてバランスを崩す。
思わず手をつけば、地面だと思えているものが、肘上くらいまで陥没した。
相当積もっている。そう思って、物語の始まりに感嘆を漏らしたが、出身地の人間、若しくは経験がある者には、そうでもないらしい。比にならない程もっと酷いときがあると言っていた。
それにしても、自分には経験のないことであるから、歩きにくいったらない。寒いったらない。そして、コレだ。
いい加減、思うようにいかない現状に苛立ちが湧き起こった。
「もう!いつになったら・・・」
次の街に着くのよ!そう続けるはずの言葉は、目の前の光景に行き場を失い、消えた。

何を期待していたんだ、あたしは。

サトシとタケシとヒカリ。
遅れ気味の自分が躓いたことにも気づかず、前を歩きながら談笑していた。
さすがに何年もここ、シンオウを旅してない、か。淡々とそんなことを頭の隅で思いながら、今だ沈む身体を起こせないでいる。

本当に何を期待してたんだ自分は。
もう一度、彼らと旅が出来るようになって。
もう一度、あの頃のように旅ができると思いこんで。

そんなことはあり得ないのに。
あの頃のようになんて。
同じなんてあるわけがないのに。過去は過去なのに。

もう一度。みんなと旅がしたかった。
もう一度。あたしと旅をしてほしかった。
あの頃のように。

でも、今の彼らはどうだろうか。
まるで自分の存在に気づいてないじゃないか。

それに苛立ちを感じる。
でも当たり前とも思う。しょうがないことだと思う。
人は変わる。成長という名で。
自分だってそうだ。自分だってジムリーダーという仕事をして、精神的にも、技術、トレーナーとしても大きく成長したと自負がある。
それなのに、彼らの変化を認めないのは変である。



そう、頭で理解が出来ている。

だがしかし、心が。
意志に反して心が締め付けられる。喉の奥がぎゅうぎゅうと圧迫される。
モヤモヤとした暗雲が心を覆う。


もうそこに、あたしの場所はないの?


ぎゅっと目を瞑った瞬間だった。

「大丈夫かい?手を貸そうか」

無音の世界に色が付いた。
見上げる先には、茶色のマントのような防寒着を翻す、トレーナーから研究者へ転向した、前を歩く彼らの中の一人の幼なじみ。
そうだ。シゲルも丁度この地方に来ていたんだ。
成り行きで合流したことを思い返す。

「あ、ありがとシゲル」
素直に差し出された手を借りて立ち上がると、その瞳を見つめた。
「なんだい?」
「あ、や。意外だなと思って」
「何が?」
「シゲルってあんまりこういうことしないと思ってたから。あ、昔連れてたお姉さんたちにはするかもしれないけど、あたしみたいなのには興味ないというか・・・」
「・・・君が僕をどういう目で見てるのか少し分かった気がするよ」
「え!ご、ごめん!」
「ほら、そんなことより、急がないとサトシたち行ってしまうよ」
「う、うん」

急がないと。と言っていた割には離れない後ろ姿に、歩調を合わせてくれていると感じた。
研究者といっても、携帯獣の謎や生態系を調査すべく、それなりに土地や環境に足を付けているはずだ。行動範囲を制限させられるジムリーダーの自分よりかは遥かに場慣れしているはず。その彼が、男女の差を考えても、自分と同じ速さとは考えにくい。となれば、やはり気を回している?

「おーいカスミー!シゲルー!追いてくぞー!」
「今い「アホみたいにペースを上げると、次の街まで保たないよ熱血バカのサートシ君!」
「誰がアホでバカだ!!」
「気づいてさえもいないのかい?サ〜トシ君」
「なんだとー!!」

なんだろうかこの気持ちは。
切なくてなんだか涙が出てくる。
数歩前を歩く背を一度見つめてから、水色のマフラーに顔を埋めた。

基盤となる幼少時に、たくさん時間を共有してきているはずの彼と彼らの中の一人の間にある名称は気のせいなのだろうか。こうも性格というのは違ってくるものなのだろうか。
まぁ・・・当たり前だけど。

考えて、空を見上げれば、眩しいくらい青空が広がっていたことに、今、初めて気がついた。



END

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サトカスにするつもりが、なんかシゲカスになっちゃいましたHAHA
しかも、サトシ達が酷いww
カスミはサトシに対して、想いがあっても、それなりの年齢で、しかもサトシとの関係は変わらなくて、だから気の迷いでも何でも揺らぐことはあるんじゃないかと思って。
でも、カスミも鈍感だから、それに気づいてない。揺らいだことさえ気づいてない。カスミも真っ直ぐな子だから。
シゲルは、だいぶ大人になって周りが見えるようになって、気づいたこともあって。シゲルにとっては当然の行動のように思う。
そこにどんな感情があったのかは、鶏にも分からないけど。
タケシは前からいろいろ分かっているけど、みんな好きだから、味方だから、どっちつかず。
シゲルはどちらかというとカスミ派。鶏の中では。