今日も快晴。 ポケモンたちの気分も上々。 うん、いい日だ。 そんなことを木陰でポケモン達の世話をしながら思っていたタケシは、こちらに向かってくる少々機嫌の悪い一人の少年に気づいて目を向けた。 黒髪で帽子を被った、前から変わらぬスタイルの少年、サトシはタケシの隣にドカッと乱暴に胡座をかいて座った。 「なんだ、またカスミとケンカでもしたのか」 「…別に」 初めて旅に出てから6年。もう一度3人で旅をするようになった。 カスミはジムのことでいろいろもめたが、休養も兼ねてと言うことで3人の姉たちの許可も出た。今は次の街への途中。 6年前より随分身長も伸びて、トレーナーとして少しは落ち着いてきたかと思えば、やはり中身はそうそう変わるものではないらしい。数は減ったもののこうしてたまにサトシとカスミは言い争いをする。 「そうか…」 「……」 「……」 「………だってカスミのやつ、まだ俺をお子ちゃま扱いするんだぜ」 長い付き合いのためか、はたまた多い兄弟の長男のせいか、タケシは慣れた風に接する。するとサトシは口を尖らせながら言葉を紡いだ。やれやれしょうがないなとタケシは思うと同時に自分も変わらないなと心の中で苦笑した。 「もう16だっての。そりゃ大人じゃないけど、お子ちゃまはねーよ」 「それでピカチュウは?」 「カスミんとこ」 あいつ最近いっつもカスミの味方すんだよなーと続けるサトシにタケシは薄く声を上げて笑った。 「そうだなー16だもんな。そりゃ止めてほしいよな」 「だろー!?」 タケシの同意の声にサトシは少しは気をよくしたらしく、空を仰いだ。 「まぁでもカスミもあれで苦労してるからなぁ」 「苦労?そうかもしれないけど、だからってお子ちゃま扱いとどう関係あるんだよ」 「あそこは親が居ないじゃないか。それであそこは上3人とカスミっていう風に別れて何かをすることが多くて…サトシもわかるだろ?カスミへの扱いが違うって」 「…あぁ」 「あれは愛情でもあるが、まだまだ幼いカスミにはわからない事が多い。それでジムのことやポケモンのことで…カスミ自身の性格もあるだろうが、自分がしっかりしないとって無意識に思ってた。それが今も抜けず、ふとした時に『何してんのよ』ってサトシをお子ちゃま扱いしてしまうんじゃないか?お前は危なっかしいからな」 その点に関しては俺もカスミの気持ちわかるなーと言うタケシに、俺のどこが危なっかしいんだよ。そうサトシは自分の行動を思い出して確かめるが、思いあたることがなく、再びむくれた。 解っていないのは本人だけ。それこそ何度危険な目に遭っているのかタケシが知るだけでも片手で足りるものではない。それほどポケモンへの愛情が深いということだが。 「って、それってさ、ずっと気を張ってるってこと?」 自分の話はすでにどこかに放り投げ、疑問を投げかける。 「…まぁ、そう言えなくもないな。でもどちらかというと、もう性格に近いかもしれない。」 「じゃぁ今のカスミはカスミじゃない?」 「いや、そこまでは言わないが……まぁでももし、もっと別の素のカスミがあるとしても俺たちには見ることはできないだろうな」 「なんで」 「俺たちがただ仲間だからさ」 「仲間…」 「あぁ…。もし見れるとしたらそれはカスミの心を開かせた相手だけなんだろうな。自分がしっかりしなくてもいい、頼れる相手。きっとそれは異性になると思うが……いつかカスミにも現れるといいな、そういう相手」 タケシが見守る兄のように優しく告げた言葉はストンと、だがじわじわとサトシの心に響いた。そして、頭の中にポっとできた想い。 それは簡単にサトシの口から音となって出てくる。 「なぁタケシ、それって俺じゃ駄目なのかな」 「え?」 「だからその『心を〜』って役、俺じゃ駄目なのかな」 無邪気に語りかけてくるその瞳には一点の曇りもない。 その真っ直ぐな瞳にタケシは面を食らった。 「え…あ…あぁ。駄目ということはない。だがサトシ。本当に解って言ってるのか?」 「何が?」 「どういうつもりで言っているのかは知らないが、これは生半可な気持ちで出来る事じゃないんだぞ。覚悟がいるんだ。途中でやっぱりやめたいと降りる事なんて出来ないんだ。むしろ、中途半端な、ただの気まぐれとかなら、それは確実にカスミを傷つける。それでもし、サトシが思いつきでそんなこと言って、カスミを泣かせるようなことがあったら、俺はサトシを許さないぞ」 いつもお兄さん、お母さん的な存在のタケシが言葉の裏に威力をつけて真摯に言った。そんなタケシにサトシは一瞬たじろぐも考え込むように下を向いて呟いた。 「ごめん。あんまり深く考えないで言った」 「……そうか、なら」 「でもタケシ。俺…。もし別の、本当のカスミがあるならそれを見てみたい。何でって言われると困るけど、とにかく無性に…自分が一番に見てみたいと思うんだ!それだけじゃだめなのか?!」 「サトシ……」 「なーに?大声だして」 「「うわぁあぁぁ!!」」 いきなり割って入った高い声に2人して驚きの声を上げた。近くにいるのが分からないほど話に熱が入っていたのか。 「しつれーね!そんな驚かなくてもいいじゃない!」 そんな二人を腰を折ってカスミは睨んだ。その拍子に肩にかかっていたオレンジ色の髪が前に流れる。その傍らにいたピカチュウも不思議そうに主人の方を見つめた。 「で、何を見てみたいの?」 「え!」 「さっき何か話してたじゃない。何を見てみたいの?」 「だっだから、えーと……そう!新種のポケモン!さっきタケシが見たって、な、なぁタケシ!」 「あ、あぁ」 「それだけじゃ駄目とかなんとか言ってなかった?」 「え!?い、いい、言ってねーよ!?」 「……ふーん。まぁいいわ。もう水の確保も出来たし、そろそろ出発しましょ」 怪しんだ目つきをしていたものの、それ以上食い下がらなかったことに男二人はほっと胸をなで下ろした。 それぞれのポケモンをボールにしまうと、ピカチュウは珍しくサトシではなくカスミの肩に乗った。 (相変わらず仲がよろしいことで) 先を歩く一人と一匹の背をサトシはふてくされ気味に見つめた。 タケシはそのまた後ろで荷物を詰めながら先ほどサトシが言った言葉の意味の真意を考えていた。どういうつもりで、そこにどんな感情を持ってあんなことを言ったのか。 そんなことを思っていると不意に何かを思い出したようにサトシが振り返った。 「タケシはいいのか?」 「何が?」 「カスミの本当の顔、見たくないのか?」 その言葉に信じられないと怒りを感じた。 サトシは自分が言った意味を理解していないのだと。 カスミの別の顔を見れるのは、たぶんたった一人だ。 それは本人が見せようとしても出せるものではなく、選ばれた者にしか見れないのだ。 だから覚悟がいると言った。 それなのにサトシは、自分はいいのか?と問うた。見たくないのかと。一緒にどうかと言うみたいな、そんな友達感覚のような想いならばとタケシは口を開いた。 「サト「いいならいいんだ。うん、よかった」 ボソリと呟かれた『よかった』。それにタケシは二度目の衝撃を食らうこととなった。 よかった?それはどういう意味なのか、問いただそうと我を取り戻したタケシだったが、すでに二人は数メートル先にいて、また何か小競り合いを始めている。 もしかしてと一瞬歓心したタケシだったが、その光景を見て (わからん…) とただ思うのであった。 だが、いつも見てきたからこそ、二人がそうあってもいいんじゃないかと、とりあえずはサトシに心の中でエールを送ることにする。なんだか親のような心境の若干21歳タケシである。 「タケシー置いてくぞー!」 本日もポケモン日和である。 END ―――――――――― とにかくサトシに無自覚な自覚を持ってほしかった。カスミを好きだって本人は思っていないけど、でも本能?脳?はカスミを好きだから無意識にあんなことを言っちゃう。みたいな?つまりサトシは鈍感だって事です。 |