君の名を呼ぶ

4(END)

* * *

「ぼくだったら、絶対新さんをそんな顔させないのにっ!」

颯太に言われガツンと頭を殴られた気分になった。
それから、颯太の顔をみてゆがめられた眉根、涙を潤ませた瞳、そんな表情を見るのは初めてだったが、唯一引き結ばれて、歯を食いしばっている事が分かる口元だけは見覚えがあった。

颯太がたまにしていた癖のようなものだったからだ。
その時、その表情をしている颯太をみても苛立ちしか感じなかったのに、泣きそうな表情をみて、ようやく、そう、ようやく彼があの時耐えていたのだということに気がついた。
その辛そうな表情を、また颯太にさせてしまっていることに気がつく。

思わず颯太を抱きしめる。
愛しい人の匂いがした。

ああ、もう、どちらでもいいじゃないか。

今、俺はこの目の前の人間を確かに愛しているし、また、悲しませようとしている。

「颯太、お前のことを愛してるんだ」

たとえ、記憶があろうがなかろうが、もう絶対に辛い思いはさせたくない。

「俺の所為で記憶がなくなってしまったかもしれないのに、こんなことを言うのはずるいな」

謝って償えることではない。
しかし、颯太は涙のにじむ瞳でじっとこちらを見た後大きく首を振った。

「そんなこと……。そんなことないです。すごく嬉しいです!
だって、この辺りがぽかぽかします」

胸の辺りを撫でながら颯太が言う。
きっと、体は覚えてるんですね。と少し先ほどより大人びた表情で颯太が呟く。

「カレー、今度は一緒につくろうな」
「はい」
「次の休み、二人でどこかに出かけような」
「はい」

今まで出来なかったこと、してやれなかったことを一つ一つ言うたびに、颯太は頷く。
最後に

「新って、ずっと呼んでくれるか?」
「はい、新さん」

まだ、その呼ばれ方になれない。
けれど、今度こそ颯太を手放すまいと心に誓った。




アンケート結果
・呑んでいるときに新は記憶が戻って欲しいと答えるか→同票
・新は浮気相手からのメッセージに答えるか→答えない
・颯太は記憶を取り戻すか→取り戻さない


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