胸ポケットに愛を
4
シャワーを浴びて出てくるとそこにはTシャツとハーフパンツと新品らしいトランクスがおいてあった。
他に着れるものもないのでありがたく着る。
けれど、おそらくこれは葉山様のものなのだろう。やや…、いや、かなり大きかった。
それでも他に着るものはないので身につける。
「ありがとうございます。お借りしました。」
浴室をでて奥へと向かうと葉山様がソファーに座っていた。
こちらを見たがすぐに視線をそらされる。
きっと葉山様が着るのに比べて貧相であるし、そもそもサイズが合っていなくて不恰好なのだろう。
傘をお借りしてもう帰ろうと思う。
しかし、それを言う前に葉山様が立ち上がると、一歩二歩と近づいてくる。
「少し大きかったな。」
襟元を触って言われる。
仕事中にはなかった距離感に戸惑う。
「葉山さま?」
不安になり名前を呼ぶと、困った様な笑顔を浮かべる。
「柚希と呼んでもいいかい?」
「っはぃい!?」
そもそも、名前を覚えていると思わなかったので驚いて変な声が出てしまった。
目の前の葉山様はクスクスと笑っている。
「柚希は顔に良く出るね。」
双眸を下げ髪の毛をかき上げるみたいに撫でられる。
甘ったるい雰囲気がしている気がして、いたたまれない。
「じゃあ、俺と恋人にならないか?」
軽い口調で言われた言葉の意味が頭に入って来てもしばらく意味が分からなかった。
ようやく、意味が理解できると、驚きと、後からかってるのかという気持ちの方が大きかった。
からかってるんですよねそう言おうと思ったのに、初めてみる位葉山様の表情は真剣だった。
「君の気持ちはなんとなく分かってるんだ。それでようやく伝えられる俺は卑怯者かな。」
葉山様の指がぼくの頬を通って首筋を撫でた。
僕は首を大きく横に振った。
伝えていいのだろうか。
こんな豪華なところに住んでいて、文字通り住む世界が違う葉山様に伝えていいのだろうか。
ぼくの気持ちはお見通しの様で葉山様は一言
「なあ、教えて欲しい。」
と言った。
「ぼ、くは、葉山様のことが好きです。」
そう伝えるや否や、きつくきつく抱きしめられる。
「まるで夢みたいだ。」
ポツリと呟いた葉山様の言葉に、僕もですと返した。
◆
「ガツガツしすぎてる、って軽蔑しないかい?」
少し砕けた口調で葉山様に言われ顔を胸にこすり付ける。
葉山様はぼく達が作ったスーツを丁寧にクローゼットにかける少し前にそう言った。
抱き寄せられた腰とその言葉の意味するところが分からないほど子供ではなかった。
「ぼくでいいなら。」
抱いてくださいなんて言うのは無理だったから、それだけ伝えるとベッドルームに案内された。
ベッドルームは葉山様の匂いがした。
こういうことは初めてだから、どんな顔をしていいのか、自分で服を脱いだほうがいいのか分からなかった。
「俺に任せればいいから。」
こめかみにキスを落とされながら言われる。
誰かに触れられたのも初めてだった。
唇に葉山様の唇がそっと触れる。
体中の毛穴が開いたように錯覚した。
とにかく全身の神経全部が葉山様のに触れられることを喜んでいるみたいだった。
キスを何度もして、やがて舌が入ってきて、息ができなくなって吐息も全部飲み込まれてしまう。
「んぅっ……。」
甘えた声が出て逃げをうとうとするのに、両手を葉山様の両手が押さえていてそれはかなわない。
手際よくすべて脱がされて、思わず身をよじる。
「隠さなくていいから。」
どうせ全部暴くんだしと付け足され身震いしたのは羞恥と期待だったのだろう。
丁寧に体を撫でられ、少しずつ暴かれていく。
自分でも知らなかった感じる部分にひとつずつ印をつけられるみたいにキスマークをつけられる。
脇も、背中もそれから太ももの付け根もそんなところを触れられただけで、びくびくと震えてしまうとは思わなかった。
体の外も中もぐずぐずに解けて思考が水あめをかけられたみたいに甘ったるくどろどろになるころようやく葉山様はぼくの最奥に触れた。
知識としては知っていた。
けれど思わず体を硬くすると、起立の先をもむみたいにこすられる。
目の前がちかちかとして他のことが考えられなくなる。
怖くなって思わず「葉山様」と彼の名を呼ぶ。
「柚希、愛してる。」
それを聞いた瞬間、思考が白くはじけた。
ぜいぜいと荒い息が止まらない。
もう後ろに葉山様の指が何本入っているかも良く分からない。
けれど、ぬちゃぬちゃという酷い音が響いているのでかなりほぐれているのかもしれない。
それからもう少しして葉山様が指を引き抜いた。
ずるりと音がした気がした。
「入れるから、歯食いしばらないように。」
入れていいかと聞かれなくて良かった。
入れて大丈夫かなんて絶対に分からなかっただろう。
後ろに熱いものがぴたりと触れた。
それから、圧倒的な質量がぼくのなかに押し入ってきた。
「ああ、ああああ、あ…っあああ。」
ずっ、ずっ、と中に中に入ってくるたびに声が抑えられなくなる。
気持ちいいかはよく分からないけれど頭の中は葉山様の熱いもののことでいっぱいになる。
ばちゅんと音がして葉山様の腹の肉がぼくの尻に当たった。
内側全部が心臓になになったみたいにドクドクといっている。
思わずじぶんの薄いはらを触る。
どくん、となかの葉山様の質量がさらに増加して、ひっ、と声を上げて思わずのけぞる。
「ごめん、手加減できなさそうだ。」
息をつめるような声で葉山様に言われたのがぼくが覚えている最後だった。
その後はとにかく熱くて、切なくて、それから後は快楽を拾ってしまった体に気持ちがついていけなかった。
気がついたときには全部終わって、体も清められていた。
もぞもぞとベッドで悶えているぼくに気がついた葉山様が水を差し出した。
それを受け取ると、飲む。
「ごめんなさい。途中から訳が分からなくなってしまって。」
多分迷惑をかけたに違いなかった。
「謝ることじゃない。」
葉山さまの表情が優しくてそれをみただけでジワリと瞳に涙がにじむ。
そのやさしい表情で見つめられることが嬉しくて、幸せで、涙でぼやけた視界で葉山様に抱きついた。
了
リクお題:(R18)身分差、平凡受け、両片思い、溺愛、ハッピーエンド
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