お荷物です。

クリスマス番外編

宅配便の荷物というものは、12月の下旬、特にクリスマスあたりを境に遅配しやすくなる。
通販のヘビーユーザーである自分は、さすがにもう毎年の事なので年末に届くようにはしない。

だから、今日インターフォンがなる理由は何もないのだ。

けれど、通信販売の荷物以外の用事は思いつかない。20時をもう回っているので宅配業者ではないのかもしれない。

インターフォンに接続されたカメラに映し出されてるのは私服を着た秋次だった。
宅配便でたまに仕事に来る以外にも数度、秋次は俺の家に遊びに来た。

トークアプリで繋がろうと言われたがあいにくそういうSNSは一切やっていない。
知らせたい日常も、友達も別にいない。

なら仕方が無いですねと言った秋次は時々メールをしてくる。
返事はあまり返さなかった。

それが逆に試しているみたいな気分になって嫌だった。


「来ちゃった。」

友達と過ごすあて位きっとあっただろうに、秋次は駅の近くのデパートのビニール袋をカメラに掲げながら言う。
それで今日がクリスマスイブなのだと思い至る。

一瞬悩んだものの、部屋の鍵を開けてしまう。
すぐに玄関まで来た秋次は「うー、今日さむいですね。」と言いながら形ばかりのリビングへと進む。

並べられたのはクリスマス向けのデパ地下のお惣菜だ。
今日はカップラーメンで済ませる予定だった。

「なにが好きか分からなかったので、色々買って来たんですが――」

毎年何を食べてますか?
と聞かれて答えられなかった。

一人暮らしを始めてからクリスマスをしたことは無い。
コンビニに行くのも億劫なただの普通の日でしかないのだ。

それに気が付いたのだろう。高校時代、友達数人で兄弟が出かけていたこと位覚えていそうなのに、秋次が口にすることは無かった。

「……まあ、ただの口実ですから。」

腰を下ろした秋次の向いに座った後、言われる。

何でもない日も、世間でいうところの特別な日も、好きな人と会うための口実を探すのに必死だった高校時代を思い出す。
あの時の俺と、今の秋次が同じ様な気持ちを持っているのかは知らない。

恋愛は怖い。
もう充分だった。

「美味しそうだな。」

はぐらかすために返した台詞に、秋次はホッとしたような顔をする。
そんな顔は晴信はしなかった。

まだ、そんなことまで覚えている自分が嫌で、渡されたビールに口をつける。

メリークリスマスなんて俺も秋次も言わなかった。
だけど、年末にかけての焦りにも似た嫌な感情が今年はそれほどない事に、少しだけ気が付いてしまった事も事実だった。



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