小夜啼鳥は二度歌う(ファンタジー)

きもち1

今日の授業が全部終わって、王様が迎えに来る。
合同以外の授業は別々に受けているため、わざわざ待っていなくてもいいのに、彼は必ず俺の事を迎えに来ていた。
自分の授業があるはずなのにいつも普通に教室の外で待っている。

「小夜啼鳥、帰ろうか。」

いつもの様に王様が言う。
それに頷くと、王様は歩き始めた。

帰り途中で、神子とその伴侶がキスをしているのを見た。
人前でそんなことをという気持ちが無かった訳じゃないけれど、視線が逸らせなかった。
実際、周りの人たちも彼ら二人を見ているみたいだった。

ぼんやりと眺めてしまいながら、横にいるはずの王様の事を思い出して慌てて彼の顔を見る。
王様はまるで興味なさげにしていた。一時期パートナーだったのか無かったかの様に王様は神子に興味を示すことは無い。

向こうも気まずいのか、わざわざ声をかけてくることもないし、居ないも同然としてお互いに学園生活を送っている様に見えた。

だから、わざわざその事に触れようとは思わない。

「行きましょうか?」

俺が王様に言うと、王様は不思議そうにこちらを見る。あまりにも神子に興味の無い様子なので、逆にこちらが不思議に思ってしまう。

けれど、それ以上考えることはできなかった。

唇を離した神子のパートナーが、何故か一直線にこちらに向かってきてしまったからだ。
慌てて後を追いかけた来た神子とばっちりと目があってしまう。

気まずくて目をそらすと、彼のパートナーは満面の笑みを浮かべて「なんでいつもすぐに帰っちゃうんだよ。」と話しかけた。

そこで初めてこの神族の男が王様と同じクラスなのだということに気が付いた。
考えてみれば当たり前だ。
成績別に分けられているクラスで、留学生とはいえ神族の男が王様と別のクラスになることはあり得ないのだ。

多分俺の知らないところで何度も王様とこの男は会話を交わしているのだろう。

「“僕の神子”も君とのことは気にしてないし、僕が学園に来る前の話だろう?
僕は君と友達になりたいし、君のパートナーも紹介して欲しいな。」

明るい声だった。少なくとも俺と神子の気まずさには全く釣り合わない明るさに思えた。思わずもう一度、神子を見ると彼はうつ向いている。

これがいつもの事なのか分からないけれど、少なくとも神子にとっては歓迎しない事なのだろうということが分かった。
俺にも分かるのに何故恋人であるこの人には分からないのだろう。

「初めまして。君も歌を唄うんだってね。」

何故か俺に話かけられる。
それから王様の顔をみて親し気に言う。

「“僕の神子”の歌声を君も聞いたんでしょ。
なら、この子の歌も聞かせてもらってもいいだろう?」

聞いても何にもならない。
別に俺は歌が上手い訳でも、特別な歌声がある訳でもないのだ。

親し気に差し出された手は挨拶の印なのだろう。
けれどその手は、王様が振り払った。

「小鳥が俺の為以外に、歌う訳が無いだろ。」

始め王様が何に対してそんなに苛烈な反応を示しているのか理解できなかった。
そんな風なはっきりとした言い方自体、彼はほとんどすることは無かったのだ。

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