臆病者のエトセトラ(王道脇)

バレンタイン(高校時代)

蘇芳が綺麗にラッピングされている包みが入った紙袋を持っているのをみて、ああ今日はバレンタインかと気が付く。
既にいくつかチョコレートを貰っている様で、モテる人間は何があっても周りが放っておかないのか等と思う。

そういえば、男子校だっていうのに校内はそわそわと色めき立っている。
なんだこれはと思わない訳じゃないけれど、本人たちが良しとすれば別にいいのだ。

そもそも、男に対して恋愛感情を抱いている自分が人様に何か言えるはずが無いのだ。

「バレンタインとか、茨木は興味なさそうですよね。」

蘇芳に話かけられ頷く。

「村人Cには関係ないイベントだろう。」
「時々、茨木は面白い事を言いますよね。別に目立たないって感じじゃないでしょうに。」
「俺は、平凡だよ。」

蘇芳はそういうが、兎に角俺には関係の無いイベントには変わりない。

なんとなく居心地の悪さを感じてコートのポケットに手を突っ込むと、小さな何かに手が触れる。
なんだと考えてすぐにそれがいつポケットに入ったのか気が付いた。

「じゃあ、これ。」

押し付ける様に渡したのは個包装のチョコ菓子で、先週外の本屋に行った時にバレンタインフェアだかなんだかで貰ったものだ。
貰ったもんを押し付けるのもどうかと思うが、本当に俺にも関係のあるイベントであればこの位は許されるだろう。

何の感情もなさそうな目で押し付けられたチョコを眺める蘇芳を見て、しまったと思ったが後のまつりだ。
取り消せやしないし、どうしようもない。

「ありがとうございます。」

困った風も無く、ただ受け取ったチョコ菓子をポケットにしまう蘇芳を見て、何も無かったこととして流してしまうのが一番だと決めた。
向こうも多分同じ気持ちに違いない。

それきり、お互いにバレンタインの話もホワイトデーの話もしないままだった。



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