ピリリリリッ……ピリリリリッ……ピッ。


「……くぁ〜…もしもし、こんな時間に何の用だよ慧」
「夜中にすみません。貴臣さん」
「…おいおい、物騒な声音じゃないか。どうした」
「やられました」
「詳しく説明しろ」


慧の声音の真剣さに只事ではない事を感じ取った俺はベッドから出てソファに腰掛ける。ソファに掛けておいたブランケットを肩に掛け、胡座をかいた。


「薙切薊が総帥となりました」
「……は?」
「学園の方針は十席が全て取り仕切る。これが仇になりました。薙切薊は根回しを既に終えていて、過半数の6席が学園総帥の座には薙切薊が相応しい、そう決定付けました」


寝耳に何とやらである。

……おいおい、マジかよ。

右の手で長い前髪をかき上げる。


「奴のやりそうな事は見当がついてはいる……が、面倒臭い事になるな」
「はい。私も時期に十席を降ろされることになるかとは思いますが、その前にやれることはやるつもりです」
「悪いな。だが頼んだ」
「えぇ」
「俺もこっちの事をさっさと片付けて戻る」
「お願いします」


そこで電話を切ろうとしたら、あぁそうだと慧が続けた。


「うちの子達は、着々と育っていってますよ」
「へぇ」
「貴臣さんのお眼鏡にかなうじゃないかな」
「楽しみにしておくよ」


夜中に失礼しました、では、言って電話は切れた。

はぁ、と息をついた。
差し詰め政変と言った所か。アレがエリナを放っておく訳がないとは思っていたが、在学中にこう手を出してくるとは……。


「お祖父様……」


思わず口をついて出る。

お祖父様が学園から退かれる。それ即ち薙切の力が若干だが及びにくくなるということ。私も仕事がしにくくなる。困ったものだ。

アレはお祖父様によって薙切から切られた。だから薙切性を名乗るべきでは……あぁ、話が逸れてはいけない。
アレのやり方は好みではない。それも今考えるべきことではない。


再び、今度は大きく息を吐いて立った。部屋に備え付けられている冷蔵庫を開け、冷やしてあったブランデーを手に取った。

グラスにほんの少し注ぐ。未成年が何酒を、なんて言わないで欲しい。料理用に色々試さなくてはならず、買ってあったものなんだ。……なんて言い訳か。

喉に熱いものが流れた。ブランデーのしつこくない上品な薫りと味に気分が少し落ち着く。冷蔵庫にブランデーを戻し、フラフラとソファへ戻った。背に頭を預け、右手の甲を押し当てた。


冷たい……。


頭の中をスケジュールが駆け巡る。
あれを、これを、と予定を詰め直す。変更を補佐に伝えて、それを各々に伝達してもらわなくてはならない。こちらの変更はまず断られない。頼まれていれている用事ばかりだからだ。


「……あぁ、くそ面倒だ……」


薙切薊、いや中村薊。
やっと最近エリナに本来の喜怒哀楽が戻ってきた所だというのに。あの恐怖下に置かれてしまったら、また戻ってしまう。あの洗脳されてしまった可哀想な子に。

あの時のエリナの表情と言葉は忘れられない。お祖父様は即座にアレを切った。もう、あんな顔はさせてはならない。そのためにも、やるべきことを。





天秤座の決意










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