「やぁ、一席」
「た、貴臣?!え…どこから…!?」


自室に戻ってきた瑛士に声を掛ければ、予想通りに慌てふためいた声が返って来て笑った。
こいつは本当に変わらない。


「お前は本当に臆病だなぁ」
「…貴臣はいつも堂々としているね」
「そんなことはないさ。…ま、お前よりは臆病ではないね」


すると整った顔を若干歪ませる瑛士が視界に映る。
こいつの底抜けの臆病さに、あきれ返るのと同時にある種の尊敬をおぼえたのはいつだったか。昔の事過ぎて忘れてしまった。

そのくせ、料理の腕前はときたらピカイチ。素材の良さを極限にまで出していくその姿勢、そのために完全に自己を捨て去ろうとすることも、正直よくやるもんだと思っていた。


…俺にはできる芸当じゃねぇなぁ。


なんて思っていたら、奴に呼ばれていたのに無視をしてしまっていたらしい。気付かなかったのだ仕方ない。


「…悪い悪い。で、何?」
「え、あー…」
「歯切れ悪いなぁ瑛士。シャキッとしろよシャキッと」


と言うと、瞬間瑛士は黙りこくって、その次に言った。


「話はなんだい貴臣。君は用も無いのにこんなところに来るはずもない」
「……あ、よく気付いたな」
「茶化さないでくれよ」
「あー……」


耳の下の辺りに手をやる。正直、本題に入るのはもっと後でもいいなと思っていたのだ。こんな馬鹿らしい会話をもう少しでも続けたかったからかもしれない。
でも、瑛士の目は違う。本題を、と。


「……お前は、薙切…いや中村薊を取ったんだな」
「…………」
「こんな事になるくらいなら、十席の座、大人しく引き受けておきゃあよかったなぁ」
「…………」
「俺は………、仕舞いだ」
「なっ…貴臣?!!」
「おーようやく口開いたな、瑛士」


ニヤリと笑ってやる。




「俺はあの人のやり方も、考えも好かないんだよ」
「俺はね、現総帥(じいさん)のやり方が好みなのさ、性分的にね」
「それはお前も分かっているんだろ?瑛士?」




「だから、お別れだ」




俺は外へ(遊びに)行くよ。









飛ぶ鳥後を濁していく






ここを去る(辞める)前に、ずっと切磋琢磨し合ってきたお前にだけは会いたかったんだ。

身勝手な俺を許してくれよ。










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