青峰くんとお兄さん
「…ごちそーさま」
「ん?大輝、お前もういいのか?」
腹いっぱいだよと返してくる弟。その顔に嘘はない。
そうか、と答えたら静かにリビングを出て行った。そう、静かに。
「大人し過ぎて気味悪いんだけど…」
「あぁ…」
今日は俺の親と龍の親が夜居ないということで、龍が泊まりにきている。
と、いうことはどうでもよくて。
「やっぱなんかモヤモヤすんのかねぇ」
久し振りに負けると。
そう言う幼馴染に無言を返す。
負け、か…。
キセキの世代と呼ばれる弟の、久々の負けに対面したときのあの顔。呆然としたような、でもどこか安堵したような、でもどこか苦さが混じっている顔。
その様子に俺は安心を覚えた。
そして、この、俺の前に座る男も。
「そりゃ負けたんだからモヤモヤするだろ」
「ですよねー」
「…まぁ、悪いことじゃないと思うけどな」
「おう。今吉達には悪いけどよ!」
二人顔を見合わせてクツクツと笑う。お互い思うことはやはり同じ。
笑いを収めつつ、どこか力を張っていた身体から力を抜いた。
***
龍を客用の部屋に追いやり、自分の部屋へと戻る途中、ふと大輝の様子が気になったので、部屋の近くへと行った。
いつもならとうの昔に暗くなっているその部屋から光が漏れている。床と扉の隙間からだ。
やはり、と思いながらその扉を軽く叩いた。
おう、と返事があったのでドアノブを軽く捻った。
「何か用か?」
「いや、大抵この時間になるとお前の部屋は
もう電気消えてるからな。どうかしたかと」
「…………」
「なに変な顔してんだ」
眉間に軽く皺を寄せて、かつ胡乱気な表情で自分を見る弟に、徐に近付いて一発デコピンをかましてやった。
「ッタ!!!…何すんだよアニキ!?」
「なんとなく」
「普通なんとなくでこんな事しねーよ!」
「ははは」
額を押さえながら吠える大輝に、昔を思い出す。昔はよくこんな風に吠えたものだ。
懐かしい…そう思っていると、大輝がアニキのデコピン久しぶりだ…と小さく呟いた。
「…そうだな」
「…………」
「大輝?」
「…アンタが今ここにいる理由はなんとなく検討付いているよ」
不意打ちだった。
知られていたか…と内心苦笑が漏れるが、反面、大輝がおもっていたよりも成長していることがわかって、嬉しくなった。
「…そうか。なら、単刀直入に聞く。どうだ?」
「………最悪だよ。寝ようと思っても、目を閉じるとあの瞬間が蘇ってきて寝れやしねぇ。それに」
「バスケがしたくてたまんない?」
「あぁ」
「そうか…そうか」
噛み締めるように同じ言葉を紡ぐ。
あぁ、嬉しい。
口角がゆっくり、だが確かに上がる。
「…アニキにやけてんぞ」
「おっと……そんなに睨むなよ」
「は?別に睨んでなんかねえし」
その割りには眉間の皺が深くなってますよ、大輝くん?
「ちっ…」
「そこ舌打ちしない。…ま、WC終わったら付き合ってやるよ、バスケ」
「…………は?」
「バスケ」
ぽかーんとする顔を見つめる。俺、別に変な事言ってないのだけど。
「やりたくないのか?」
「やる」
「はい決定」
「…何でだよ」
「何でかって?そりゃあ、お前、桐皇の奴らじゃ物足りないだろ」
なるほど納得、という顔。
確かにここ数年バスケやってる姿は見せたことなかったけど、もう少しいい反応してくれると思っていた俺としては少々つまらない。
「…よし、負けた方ラーメン奢りな」
「なんでだよ」
「いや、お前の反応が思った以上につまらなかったからさ」
「はあ?!」
「んー…俺、いつ空いてたっけ…」
「聞けよ!!!」
「日にちは後日決めよう」
「おい!」
「じゃあ俺はもう寝るわ。また朝な〜」
「アニキ!」
「なんだ、傷心の大輝くんには兄の添い寝が必要ですか?」
「ふざっけんな!一人で寝れるわ!」
「そうかそうか。…おやすみ」
「…………おやすみ」
「電気消してくな?」
「おう」
パタンと扉を閉める。
よし、これで寝れるなあいつは。と思いながら、ゆっくりと足を動かした。
(おいおいアニキこのままやられるつもりか?本気出せよ)
(くっ…龍!!!)
(ヒーロー参上!!!)
(なっ…!アニキひきょうだぞ!?)
(2014/05/11 更新)
うわっはー…更新2か月ぶりじゃないか…すみません…ごめんなさい!!!(土下座
当初考えていた終わり方ではないのですが、お話を明るくするためにこうしました。当初はもっと薄暗い終わり方だったんですけど、緑間のでこれでもかというくらいに暗いお話にしたので今回は控えました(笑)
ご感想等いただけると嬉しいですー!
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