ナターレ | ナノ



tu scendi dalle stelle

o Re del Cielo

e vieni in una grotta al freddo e al gelo

e vieni in una grotta al freddo e al gelo

o Bambino mio divino io ti vedo qui a tremar




見た目も天から降りてきた天使のような美しいブロンドをたたえた少年たちが耳に優しい合唱団の歌声を街中で歌っていた。
イタリアでナターレには昔から謳われているこの曲を、ああ、主の曲だと気づいたのはいつのことだったか。



(あなたは星空から降りてくる、天の王よ
あなたは冷たく凍る洞窟へやって来る
あなたは冷たく凍る洞窟へやって来る
私の崇高なる子よ 私はここで震えるあなたを見る)



あの時、主のそばにいることをかなわなかった無力で何も知らなかった俺は、今は主のそばに生きることを許されている。

失態は死だと、それに何の疑問も持たず弾圧し続けたオレが何度見苦しい失態を繰り返したかしれない。それでも彼の王のそばにこの身をささげられるのならばそれこそもう、剣以外は何もいらなかった。
落ち着いた色彩で飾られた町々の、神の御子を待つ神聖な期間を粛々と過ごす街を歩けば、街の街頭とともにウィンドウに映る自分の姿が目に入る。

主がゆりかごに入り、眠ってしまってからは自分の姿をじっと見ることも感慨を持つこともなかったかのように思う。下を見て、泥水をすするような臥薪嘗胆の日々を送っていたころよりきっといい顔をしているのだろうと思った。

主の夢をかなえるという事は、できなかったけれど。
それでもそれでも、オレにとって神はあいつしかいない。

ナターレだとて、今日も今日とて季節など関係なしとばかりに引きこもっている主に、パネットーネでも買って帰ろう。



*



「なんだそれ」



帰宅して買ってきたパネットーネを見せての第一声だった。パンドーロ派だったのだろうかなんて考えながらも、まあ気にすることもねぇかとローテーブルへ。
どうせこいつは談話室なんかほとんど来ねぇんだから二人でつまめるくらいの小さなものでいいだろう、と買ってきたのだ。
一人分には多いし、否が応でも食ってもらう。



「パネットーネだぁ」

「…お前が菓子なんか買ってくるのは珍しいな」

「まあナターレでもなきゃ買いやしねぇけどよぉ。どうせ今年もひきこもるつもりなんだろぉ?ならこれ一緒に食うくらい良いだろうがぁ」

「いらねぇ」

「1971年のギアンティ・クラッシコも買ってきたぞぉ」



優良年と名高いワインを見せれば、XANXUSは少し考えるように眉を寄せてからデスクをコンコンと足で叩く。大変行儀のよろしい脚で、と思いながらもさすが良作と名高いワインは少し気になるようだとにやりと笑った。

その笑みが気に食わなかったらしく思いっきりペンがぶっ飛んできて額に刺さったがそれだけのこと。
いつもより重さも怪我も少ない選択肢を選んでくれただけでありがたいと思わなければ。

パネットーネを切り分け、冷やしておいたワイングラスをローテーブルに二つ乗せ、ワインが体温で暖まらないようナプキンを添えて片手で持つ。
コルクを抜いてナプキンでワインの注ぎ口を拭ってからワインを注いだ。無論、銘柄や製造年月日を確認できるように、ラベルが主に見えるようにして。
まずは一口分注ぎ、味を確認させる。


この主はワインやコーヒーの注ぎ方の一つも知らなかった14の小僧に徹底して教え込んだことを覚えているだろうか。
やれワインが温まるだコーヒーは豆から挽け香りが飛ぶだ口うるさく。

ウェイターにする気かと思ったが、いままでXANXUSの周りには飲み物をつげない人間が一人として存在していなかったのだと、オレがイレギュラーだと気づいたのは出会ってひと月もしないうちだった。気づいてからは死に物狂いで練習したっけなぁ、というのは良い思い出で、今ではそこらの本職のウェイターにだって負けない。


一口飲み終えたXANXUSがうなずいたのでワイングラスの1/3まで注いで、ついでにオレのにも注ぐ。注ぎ終わったワインの口元を軽く回して立て、注ぎ口を再度ナプキンで拭いたら氷を入れたワイン用のバケツに入れた。



「少しは様になるようになったな」

「何年お前と一緒にいると思ってんだぁ。当然だろぉ」



くつり。隣にいる主がソファを軋ませたので少しは気に入ってくれているのだとオレもワインに口をつけた。



「あっそうだ。こいつも買ってきたんだぁ」

「あ?」



ケーキを買っていた時に、手作りキャンドル、と価格表示の上に書いてあったサンタやらドルチェをかたどったキャンドルが売っていて、サンタがあまりに悪人面をしていたため売れ残ってしまったのだろうものがあったから思わずそれを手に取って買ってきてしまった。



「…ドイツの黒いサンタみてぇな顔してるな」

「町にいたら思わずヘッドハンティングするだろぉ」



XANXUSがくつりと肩を揺らしたのので、ツボに入ったらしい。

悪人面サンタとケーキの形をしたキャンドルに火をつけて、部屋の明かりを落とせばなかなかいいムードになるものだ。

普段指輪や手にともす炎とは違い、揺らめく炎はなぜだか安らいだ。壁にかけられた絵画や天井でずっしりと輝いているシャンデリアも、普段とは違う明りの受け方をして別の部屋のような印象を与えてくる。



「………」



一瞬の静寂、ふとXANXUSを見れば、何を思ったのか目があった。ふと鼻から息が抜けてから目を逸らされ、見間違いでないならば表情が緩んだように思う。



「なんだぁ?」

「お前はガキの頃からロマンチストだけはかわんねぇなと飽きれてただけだ」

「んだとぉ!?」

「ぶはっ!悪くはねぇな、伊達男が」

「!」

「…何嬉しそうな顔してやがる」



こらえきれずに笑った顔は、キャンドルの明かりを下から受けているせいか、とても幻想的だったから。
思わず何度でも恋をしそうになる。

なんでもない、とオレも小さく笑ってから少しだけ照れたのを隠すため、パネットーネを一口分口の中に入れて租借した。




キャンドルごしの笑顔
(来年も見られたらいいなぁ、とか)(思っちまった)



20131224(title:反転コンタクトさま).



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