そろそろナターレの時期に備えて近くの貧窮院にナターレカードを贈ったり、そこの子供達へのプレゼントを用意しなくては。
そんなことを考えながら、近々の予定の確認をする。
屋敷も、街並みや景観を壊さないようにナターレの飾り付けもはじめなくては。
ライトアップの準備に小物に、それに雨のプレゼントも選びに行きたい。
いくら何でも子供の前でプレゼント選びをするわけにも行かず、今月来月あたりはすこし寂しい思いをさせてしまうかも知れない、と思ってから頭を振って考えを追い出す。
幼い雨があの頃心に負ってしまった傷は、根深いものだ。
まだ、オレ以外の人間と二人で話したり行動したりするのを怖がる子供を置いて外に一人で出かけてしまうなんて無責任は許されない。
「二代目?」
「ん、どうした?」
「難しい顔してたから…」
裾をぎゅうっと。
意識してかしないでかすがるように握った子供に笑顔を向けて抱き上げた。
「何でも無い。今年のナターレはどんな街並みになるのかと思ってただけだ」
「ナターレ?」
「ん?」
―――ああ、そうか。
雨は季節のイベントに詳しくないんだった。
下を向いて歩いていた子供は、祭り喧騒に混じれなかったこの子供にとっては。
プレゼントを見たことのない子供にとっては。
きっと某かの祭りだと言う認識はあれど、中身は分かっていなかったのかも知れない。対岸の火事、みたいなもので。
「イタリアはカトリックが多いからな。救世主の聖誕祭なんだ。…街はそれは綺麗に飾られるし…その日一年良い子にしていれば、1月7日の朝にベファナという魔女が、子供にプレゼントをくれる」
「!そうなのかぁ?………」
「雨は今年良い子だったからきっと来てくれる」
「………そう、かなぁ」
少し自信がなさそうに俯いた雨の額にコツンと額を当てて、「オレの評価が信用できないか?」と問えば、なぜかまた泣きそうになりながら首を横に振ったのだった。
*
屋敷の中も飾るのだという話をしたら、雨が目をわかりやすく輝かせたので小さく笑ってから装飾品を売っている店を一緒に廻る。
ベファナの置物や、ライトアップの大きな電球をのぞき込んで終始にこにここちらを見上げていたのが微笑ましい。
素直に笑っているときの方が可愛らしいんだからずっと笑っていれば良いのにな、とは思いながらも、きっと雨の中でこんなに笑いかける対象の人間が今まで居なかったのだろうことも想像ができたので今はこれで良いか、と飲み込む。
ツリーにぶら下げる飾りのまわりをぐるぐると飽きもせずに廻っていたので、店主に届けさせるよう伝票を書いた。
「かっ!買っていいのかぁ?」
「今日は装飾品を買いに来たんだろう」
「うっ、うん!」
てててっ。うれしそうな返事をして、本人にとっては大きな、オレにとっては小さな歩幅で一生懸命着いてくるので歩調を落とす。
「あとは当日の料理なんかも懲りたいな」
「ホントかぁ?」
「ああ」
毎年料理や飾りは業者に任せてしまうんだが、今年はお前が居るからな―――とは、口に出さない。
出してしまえば、きっとオレのせいで無駄な出費を、とか言い出すことだろうし。
違うんだと。
お前の喜ぶ顔が見たいんだと。
いつか自分で気づかせたい。
*
昼間は通常業務の傍ら雨と共に屋敷内を飾って、飯を一緒に摂り、雨を寝かしつけてから手紙で夜プレゼントを選びたい旨を伝えた洋菓子店や子供用の服や靴、おもちゃの店をまわる日々。
無論午前様になってしまうし長らく続ければ疲労もたまるが、ボンゴレのシマの中の住人に無理を言って普段空けていない時間に裏口から入れてもらうのだ。
オレが好きこのんでたった一人の子供の為にわがままを貫いているのに、疲れた顔をするわけにも礼を怠るわけにも行かない。
しかし納得いくまでプレゼントに悩もうと心に決めていた。
6年間も他の子供が受けていた幸せを受けられなかった小さな子供の為に。
その子供の笑顔が見たい自分の為に。
*
「二代目」
くいっ。小さく裾をひっぱりオレの気を引くのが最近癖になっている雨が裾を引いたので、顔を向ける。
「どうした?」
「なんか、疲れてるみたいだから……。少し休もう、な?」
驚いた。
そんな素振りを見せたつもりはない。大人が本気で子供を騙す気になって、騙せないとは思いもしなかった。
腹黒い大人の跋扈する社交界で生きてきたのもあり、嘘や建て前、演技はうまい方だと自負している。
子供に見破られるほどに疲れているのか。
紫銀の目をのぞき込んでから、違うなと気づく。
きっと雨は元々聡いのだ。
人の顔を、面と向かって見てこなかっただけで。
「……そうだな。少し疲れているかもしれない」
「うん、時間見てるから…休んでくれぇ」
「雨、おいで」
「?うん」
素直に頷いた雨と寝室へ。
ネクタイを緩め、ベッドに寝ころび手招き。隣に着いた雨の手を引いてベッドに腰掛けさせて。手を握ったまま寝ようとすれば。
「に、二代目!?」
「少し眠るから、手を握っててくれないか」
「い、いいのかぁ?」
「何かあったら起こしてくれる人がいると思えば安心できるだろう?」
「!!うん!」
力強くうなずいた雨に、笑いをこらえてから目をつぶった。アキレス腱は近い方が安心して眠れる意味もあると言うのは、子供に隠して。小さなプレゼントをもらった気分で休む。
ナターレの本番には、倍にして喜ばせてやろう。
(エピファニアに喜んだ子供は年相応の笑顔をくれた)
ラブは誰から?
(世界の誰よりも可愛い君へ)
(世界の誰よりも優しい君へ)
(世界中誰よりも愛しい君へ!)
20131224(title:反転コンタクトさま).