2013いい夫婦の日 | ナノ





昔々のオレの幸せというものはとても小さいものだった気がする。
毎日親の顔が見られる、とか。
毎日ひとかけらのパンを口にできる、とか。


しかし人間とは欲の深い生き物で、一度上の生活を身にしみてしまえば、降りてこられなくなるらしい。
いつしかあのころの幸せや贅沢は当たり前になり、誰かを顎で使うことが当たり前になり。
それなりの甘い汁を吸ったオレはそれなりの事では楽しみも感じなくなってしまった。
だいたいなにがしかにイライラしては、当たったりするようなそんな生活だった。



「ねえねえボス」



対してこいつはどうだろうか。
裾を引っ張ってぎゅーってしてとかちゅうしてとか。断ったところで向こうずねを思い切り蹴られて思わず「ぐあああ」と屈んだところにはぐとキスをかましてきたりその後10倍にしてボコボコにしてやっても学習能力があまり見られないから次の日にはまたキスとハグをせがんでくるしいつでもどこでも何が楽しいのかニッコニコしてるし時にはありの巣を一日飽きずに見ていたりする。真夏に3時間前と同じところに屈みっきりだったときはまさか死んでいるのかと思ったがJr.が麦わら帽子かぶせにいったら寝ているし待てよなんで40℃近い炎天下の中でうたた寝ができるんだこいつ、と毎日信じがたい事が起こっている。

飽きない、という意味では良いのかも知れないが。



「なんだ」

「もし、わたしが」



くだらないことを言う前触れだと思った。
こいつが、こうやってたまに下を向きながら話すときは、大抵くだらないことだ。聞いた方が良いのか。
聞かない方が良いのかは、未だに分からない。ただ、言わせておけば良いってものでも無いんだろう。オレにどんな返答を求めるのかは知らないけれど。
どうせこうなったらこいつは口を閉ざさないんだから。



「夕飯と朝ご飯の買い物忘れたっていったら怒る?」


ごつっ!!
想定以上にくだらないことになっていて思い切り殴りつける。


「さっさと言えばかっ!!」

「うわああああん!言ったら殴ったじゃん!!」

「どうすんだ!明日まで断食か!?お前を食うぞ!?」

「ま、まさか…今はやりの巨人ってやつ…!?トレンドだねボス!」

「うるせぇ黙れ!」



襟首津掴んでエンドレスで頭突きをしてゴリゴリしていれば、リビングにJr.が入ってきて心底冷め切った目で見つめられた。



「…なにしてるの?…またわがまま言って母さんを殴ってるのお父さん…」

「な、なんでオレに対する信用がそこまでねぇんだお前…!!」

「信用して欲しかったら誠意ある行動を取りなよ」



一人息子が冷たくて泣きそうだ。今度からジジイに少し優しくしようと思ってしまうほどだった。



「で、そうじゃなかったら何してるの?」

「夕飯の材料買い忘れた…ごめんJr.…朝までに飢え死にしたらごめんJr.…!!」

「…ああ、そうだ。明日学校休みだからノーノから今日は本部に泊まらないかってメール来てたんだけど3人で泊まりに行かない?」

「!ほんと?」

「誰がジジイの所なんかいくかっ!」

「じゃあ一人で飢え死にして。行こう、母さん」

「ボスが飢え死にしちゃやだああああ!!行こうよぉおお」



がっくんがっくん!
首を掴んでシェイクされる。
どっちが子供わかんねぇなっつーか子供の腕力でガクガクされるならともかく幹部、お前の腕力でガクガクされると、う、ちょ、待て、頭が!頭がいてぇ!!
つーかなんでJr.と幹部が飴と鞭作戦使ってんだよなんだこいつらオレも混ぜろ。



「わかっ、分かったから放せ…っ!」

「やったー!!」

「外寒いから上着着てね」

「あ?必要ねぇ」

「風邪ひいちゃうよ」

「必要ねぇ、おい、幹部」

「うん?」

「来い」

「うんっ!」



ドフゥッ!「ぐふぅっ」。助走をつけて首に飛びついてきた。
待て、来い、とは言ったが助走をつけろとは言ってねぇ…!!一瞬体勢は崩しかけたが持ち直して、首に絡んでいる幹部の腰を抱き寄せバランスをとりながらJr.の手を取った。



「…えっ、お父さん、そのまま行くの?」

「寒くねぇっつったろ」

「………うん」



Jr.が何かを言いたそうな顔をしたが、飲み込んだようだ。これはこの間寝る前に考案したもので、一緒に歩くっつっても幹部が腕を絡めてはあっちこっち好き勝手に歩き出すのを防止した状態だった。これで好きに歩かねぇだろ、ちなみにスタンスは恋人と言うよりコアラの親子に近い。とJr.に言ったらくすくすと笑ってそうだね、と言って出かけることにした。



幹部が腕の中でオレにすり寄ってくるのは防止しようが無いが、あっちこっち歩き回られるよりはずいぶんマシだろう。




幸せだと笑うお前を、もう馬鹿にできない
(ジジイにも笑われたのは幹部がいつまでたっても降りないせいだ)(後でぶん殴る)



20131122(title:反転コンタクト様).






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