何かひとつ、たったひとつ。
*
夕闇に流れた銀糸を視界の隅で追う。
暗がりでも浮き上がって見えるようなその銀糸は嫌いじゃ無い。
はぁ、空に溶けた呼気は白く色づいてから姿を消した。ここのところ、ずいぶん寒くなってきたものだ。
寒いのは嫌いだ。
その意識が着いたのはずいぶんと長いこと冷たい氷の中に居たからなのか。
あのときの、寒いと催す眠気を思い出すのが不愉快なのかも知れない。スクアーロも、冬は嫌いだとぼやいた。
自ら言いはしないが、おそらくスクアーロも。
思い出すのがいやなのだろうと思う。
嫌だったときの記憶なんか。
お互い掘り返すことも無いのでスクアーロは上を向き、オレは下を向いた。
白く吐き出され空気に消える呼気を眺めていれば、スクアーロは少しだけオレの方に寄り、肩をつけた。
視線だけ向ければ、スクアーロが少しだけ緊張した面持ちで見つめ返してきたから。
なんだ、こいつもそんな顔できんのかと鼻で笑ってから視線を戻し好きにしろ、と示したら隣で嬉しそうに小さくガッツポーズを決めた。
「大げさなやつだな」
「だってお前、…初めて会ったときのこと覚えてるかぁ?」
「…」
初めて会ったときのことを思い出す。
そうか、こいつとははじめから距離感が違ったのだ。パーソナルスペースが違いすぎた。
制空圏より半歩離れたくらいまで離れないと落ち着かなかったオレに。
スクアーロは胸ぐらつかめる位置まで一気に詰めたから思わずボディーブローしたのを覚えている。スクアーロは死にかけていたが。
はたして18年後。
こいつに限り警戒心が薄れたと言ったら調子に乗るから絶対に口にしないけれど。
肩が着いても怒りを表さないようにはなった。
引き寄せるマネはしない。
勝手によってくるから。
必要ない、が正しいかもしれない。
わざわざ言ってやることもしない。
向こうは、言葉をほしがるかもしれないけど。
その時はねだらせればいい。
ねだれば、与えてやるだけだ。
可愛いおねだりが出来れば――の話だが。
ふと鼻で笑う。
スクアーロは笑われたと思ってくってかかってきたので頭をぐしゃぐしゃしたら黙った。
「ぶっ、ばぁか」
「なっ、なんでだぁ!?」
なにかひとつ、握りしめて生まれ変われるなら
(お前との縁でもにぎっとくか)
20131122(title:反転コンタクトさま).