“……、ゴミをはらうだけだ”
“銀のレースに覆われた花嫁みたいにきれいだが”
二代目は覚えているだろうか。
二代目がオレに初めてかけた言葉だ。
いいや、きっと覚えてはいないのだろうけど。でも、オレは初めて自分に向けられたその優しい言葉が嬉しくて、嬉しくて。
心の雪を解かすように優しかったのを覚えている。
多分わからないだろうとは思う。
きっと単なる日常のたった一コマだったことも。優しい言葉をかけたとすら、思っていないんだろう。
だけどオレはその一言で恋をしたし、世界で一番幸せな瞬間だったと確信したくらいだった。
「雨」
「ん?」
オレの体を抱き上げてぎゅうっと抱き締めた二代目に真っ赤になって、でも引きはがすのももったいなくて嬉しさと羞恥に耐えていたら、二代目が漸く放してくれて、足が地面についた。
「どうしたんだぁ?」
「今日は、ずっと一緒にいられそうだから何しようか考えていた」
「えっ、仕事はいいのかぁ?」
「…どうしても今日あけたくて、…昨日少し詰め込んだから大丈夫だ。食事にでも行かないか?」
「!いくっ!」
どうしても今日あけたくて、という意味を聞いたら、オレの名づけの由来になっている日本で、今日はごろ合わせでいい夫婦の日なのだと言った。
嬉しくてうれしくて、二代目の腕に抱き着いて馬車に乗り込んだ。
出会ってから、10年か。
指輪を二つもらった。
レイピアをもらった。
たくさんの愛をもらった。
オレは、二代目が大好きで大好きで、ずっと隣に見合う人間になろうと思っていた。年の差を気にした。
どうしたら可愛いのか、服なんかにも気を使うようになった。二代目の隣にいても大丈夫な女になりたかった。あのころからあこがれ続けている人に、なれているだろうか。
二代目に見合う女に。
「なあ二代目」
揺れる馬車の中で、二代目に絡めた腕の力を強めて見上げる。
「…おれがお嫁さんでよかったのかぁ?」
「…雨がお嫁さんじゃなかったら嫌だったな」
「!」
「雨は忘れてるかもしれないけどな。…お前に会ったときに銀のレースに覆われた花嫁みたいにきれいだって言ったのは冗談のつもりもなく本気だったんだが」
「……」
覚えて、た。
あたまの中であの時言われた言葉を反芻して、さっき言われたみたいに思い出せる言葉が何度も頭を占めて。
「…本当に、それからも毎日きれいに可愛くなっていって。…、正直なところ、雨も小さかったしここまで追いかけてくれるとは思ってなかった」
「………」
「だから本当に16になるまで俺だけを見ていてくれたら、とは思っていた。それがかなって嬉しかったよ」
二代目が、珍しく照れた方に頬を染めてオレの方を見て、顎を救い上げて唇にキスをしてくれた。
「雨じゃなければ、悲しかった。だから夫婦になれて嬉しい。…これからも一緒にいてくれないか?」
「!!あっ、あたりまえだぁ!!ずっと、ずっと一緒だぞぉ」
ぐすっ、嬉しすぎて鼻を鳴らしてしまった。
「な、なんで泣くんだ」
「ご、ごめん」
だって、だって。
こんなに嬉しいことって。
ああ、いい夫婦になれてよかった。
いいお嫁さんでいよう。
孤独な心に声が響いた時から
(だってオレは、あの時あの瞬間から二代目しか見えなくなってたんだ)
20131122(title:反転コンタクトさま).