春の訪れを待つ。
木々も枯れ果て荒廃を思わせる情景に春はまだかと呆れて問うようにため息をつけば、冬もこれからだと主張するように吐いた息が白んで消えた。
この時期の空はとても綺麗なのだ。
地平線は橙に、夜の帳をおろす深い深い群青の中。
アメジストの中から外を見ているようなのに、それでも光はあると澄んだ空気の揺らめきによってちかちかと自己主張を繰り返す星が広がって。雲は風を感じさせない静かな青の強い紫に時々紅をさしたような紅。
帳と橙の間には明け方のような一瞬の空の白みを一直線に踊らせては地平の山々が光の影に黒く染まる。
このテラスから見る世界は美しい。
あのロマンチストも、この景色を見てここで「誓い」なんてものをたてようと思い立ったのかもしれない。
考えすぎか、と鼻で笑ったら背中からふわりと上着をかぶせ、先ほどの誓いの話をした男が抱きしめてきた。
「う゛ぉおい、冷えちまうから薄着で外に出歩くなって言ってあんだろぉ」
「るせぇな」
ごつん。頭一つでかい男の顎に軽い頭突きを食らわせふん、と息をつく。
本気では無い、小さな戯れだ。柔らかく包み込んできている上着に邪魔されて、それほどの衝撃はオレにもスクアーロにも無いだろう。スクアーロはくつりと小さく笑ってからオレの腹を撫でた。小さく膨らんだそこには、新しい命が入っている。
「お前もこいつも冷えちゃ体に悪いだろぉ」
「ふん」
「こら」
「るせぇ、ならテメェが風よけになってりゃいいだろ」
「ったく」
しょうがねぇボスさんだなぁ、そんなことを嘯きながら、肩を抱いてオレの好きな空をスクアーロも見上げた。
紫銀の眼には、オレと同じ大きな空が映っていた。
「悪くねぇと思うか?」
「ああ?」
「この空は」
「…お前と見れば何だって悪くねぇだろうなぁ」
お前となら、硝煙と血しぶきと悲鳴に満ち満ちた、夜の舞台だって悪くは映らない。そんなことを口に出した。
この馬鹿のことだから、本当にそう思っているのかも知れない。
そう思っていれば、地平を一瞬だけ光の線がなぞった後に夜色になった世界にもう一度息をついて。スクアーロの足を突けば、「もういいのかぁ?」なんて良いながらオレを抱き上げて暖炉が暖めてくれている部屋へと二人で潜り込んだ。
雨の日も、晴れの日も、分け合った希望は二人に育てられる
(暖かい命が宿る場所はきっと世界で一番優しい場所)
20131122(title:反転コンタクト様).