優しいひとと幸せになってね
側から見た自分の様子は、まるで屍のようだ、なんてフレーズが出てきそうな程の光景だった。優雅な休日の始まりに朝食を…ということはなく、寝起きの頭を冷やすために一杯のお茶を用意し、そのままパンを頬張る。そしてぼんやりとテレビを見つめるのだ。
『元イナズマジャパン、吉良社長の熱愛報道でましたね。しかし吉良社長は既に一般女性と同棲しているとの情報がありますがーーーー』
へぇ、と思わず声を漏らしてため息。大学を卒業して数年、会社にも大分慣れてきた頃、ようやく一人暮らしを始めて、はや半年が経った。再び虚ろな目でテレビに視線を向ければ、聞きたくないことを頭で咀嚼する事がこんなにも難しい事だと初めて知った。
『お相手は今季大ヒット映画のヒロイン役のーー』
国民的アイドルが映し出された後に、再びテレビに映った赤髪の男。つい半年前まではわたしがよく知っていた男だった。まさかテレビに自分が一般女性として登場する日が来るとは思わなんだ。こんな大々的に吉良ヒロトの報道してもらって悪いのだが。
「…別れてるよ、安心して」
だから二人は安心して幸せになれば良い。
テレビのネタの主である吉良ヒロトとは中学時代からの知り合いであり、【元】彼氏であった。ちょうど彼が選手を辞め社長として仕事を始めた頃だっただろうか。半年も前に別れを告げられたのにも関わらず、わたしまだ基山ヒロトがいない生活に慣れていなかった。
今日の休日もベッドで過ごすのだろう、と思えば知らず知らずの内に枕を濡らす。いつになったら忘れられるのだろう。ちょうど熱愛報道も出た事であるし、きっと頃合いなのだろう。
『他に好きな子が、できたんだ…』
彼はそう言って、俯いた。言いづらい事を言わせてしまったあの日をわたしは忘れる事なんて無いのだろう。あれだけの年数を一緒に過ごし、何故気付いてあげられなかったのか。そうしたらわたしもこんなに傷付くことなく離れることが出来たのに。
しがない一般女性は今日もブラウン管の彼を思って泣くのだ。
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