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君だから


  次に会った時は必ず伝えよう、そういくら頭の中で考えていても簡単に形にはならない。人間が自在に操っている言葉というのは実際難しく厄介な物だった。


「ねぇリュウジくん駅前のイルミネーションが凄いんだって」
「へぇ、そうなんだ」


  気づいた瞬間にオレの口からは思ってもいない言葉が紡がれる、訂正しようとしても彼女の表情は悲しそうに歪んでいくだけだった、それを見つめたまま何も出来ずただ焦るだけ。オレはいつもこう返す事しかできない、なまえの目が心なしか潤んでいる事に気づくが呆然と立ちすくむまま時間が過ぎる。これはとてつもなくやばい状況だろうが何も言うことが出来ない。だっだからちがくて!そう言う意味じゃないんだよ、行きたくないわけじゃないんだよ、分かってくれよ分かるわけがないじゃないか!オレのバカ!なまえは視線をぐっと下に向けて制服の裾を掴んだ。小さく震える姿に一層オレは何も言えず動けなかった。


「そうだよね、リュウジくんサッカー忙しいし…」
「ち、ちがっ」
「ううん、また今度にしよう、ありがとう」
「…あっ」


  ぎこちなく笑う姿にぎゅっと締め付けられオレの顔には一瞬で熱を持つ、クリスマスは近づいて来るし少しでも男らしい所を見せたい、そんな思いとは逆になまえに気を使わせて羞恥心が募る、馬鹿みたいになまえを前にすると体が凍ったように動かず、考えていた言葉も脳が麻痺したかのように逆の言葉が形になる。学校でも明るい性格で友達も多いなまえの笑顔が1番好きだった。なのに今オレは彼女の笑顔を見ていない。寂しそうに歩いていく彼女の後ろ姿をただ見ている事しか出来ず、そしてオレは優しくてまるで天使のような彼女を傷つけたのだ、またやらかした、やらかしてしまった。そうすべてはオレが素直さというカケラをイチミリも持っていないからだ。


・・・


『リュウジくん今日一緒に帰れる?』
『…き、今日?』
『よ、よかったら部活終わるまで待っててもいいかな』
『…別にいいけど』


『応援行っちゃダメかな』
『…え!?…ちょっとそれは』



「…とりあえず緑川は何がしたいの?素直じゃないの?本当に嫌なの?どっちなの?」


  辞書を借りにわざわざヒロトの教室まで行くと予想通り説教を受けた。その通りです、本当はすっごい嬉しいのになまえを前にすると何も出来なくなっちゃうんだ。告白することは出来たのにこれじゃ付き合う以前の問題になる。普通にマネージャーが作ってくれたおにぎりとかにはありがとうって言えるのに肝心な相手には言えない。ダラダラと項垂れるとヒロトは隣でため息をついた。『全く激しくツンツンもいい所だよ、嫌われても知らないからね』面白かったのかお腹を抱えて笑うヒロトに少しイラッとして頭を突いた。…あ、ヒロトに借りた辞書何か書いてやろ。


  頬杖をついてグラウンドを見つめると授業ではサッカーをしていた、ああ今日も部活でサッカーするしか気分なんて紛らわす事が出来ないだろう、そういえばなまえも部活だったはずだ。一緒に帰ることなんて出来ないだろうか、メールを打ってみようか、でもまてよ返信が返って来なかったら呆れられてたらどうしよう。ああもう!きりがない。これじゃあなまえに呆れられてしまうのだって時間の問題だってわかってる、わかってるのに。せめてさ、せめて一緒に帰ろう、くらい言えたらいいのに。窓際のお昼過ぎの気持ちいい太陽の光がいい具合に当たる場所、オレの席は今最後尾の列で最高にいい場所にある、だって授業はつまらないんだ。今なら携帯だって弄ることが出来る、彼女にメールだって打つ事が出来るじゃないか、思い立ったようにポツポツとゆっくりとボタンを押していく、何も考えず画面に文字を打ち精一杯メッセージを完成させた。あと、は送信ボタンだけ、ボタンだけだ。


[送信]


「うぁわああああああ!」
「…緑川ーうるさい。この問題よろしく」


・・・


  あの絶好の席でダラダラとしないわけがなく授業なんて全く聞いていなかった、問題は解けるはずもなくクラスメイトに笑われて終わった。な最後の授業を終えて部活に向かい彼女に送ったメールの事も忘れて無我夢中にサッカーに打ち込んだ。『今日一緒に帰れたら帰りませんか?』カタコトだけどこれがオレ精一杯。返信が来たかどうかわからないが彼女が待っていてくれる事を願った。


「今日もお疲れ様!今日の練習は終わりです!」


  マネージャーの声が響いた時部員全員がグラウンドにへたり込んだ、オレは直ぐさま部室に戻り着替えを済ませた、そして携帯を取り出しメールを確認すれば彼女からの返信。『待ってるね』喜びを隠せず携帯相手に口元が緩み気持ち悪いと言われた。仕方ないじゃないか!初めて素直に誘えたんだからさ!いつもより何倍も早く着替えを終わらせ皆に敬礼した、その瞬間頭の上に?を浮かばせる皆に笑みを返した。


「緑川リュウジはこれから彼女と帰宅です!」


  最後に手を振ればこれも予想通り大きなブーイング。逃げるように校門に走り出すとなまえは花壇の端に小さく座っていた。


「リュウジくんお疲れ様」


  キラキラとしたまるで太陽みたいな笑顔で笑うなまえを見て思わず顔が熱くなる。この顔めっちゃ可愛いんだよね、部活で疲れていた足も何もかもが吹き飛んでしまったように感じる、嬉しくなってオレも彼女へと笑いかける。


「どうしたの?リュウジくんが誘うなんて珍しいよね」


  口に軽く手を当てて小さく笑うなまえを見て何かで頭を打たれたように呆然と立ち尽くした。この顔も可愛いんだよね…じゃなくて、なまえを誘った事に用事があるだとか事務的な理由なんて無い。なまえと一緒に帰りたかったんだ、その一言がまた出て来ない。まるで舌が凍ってしまったかのように呂律が回らずはっきりとした言葉にならくて。あの、その。赤ちゃんのような言葉が逐一幾つも並べられて意味なんて伝わらない、笑ってごまかすように腕を後ろで組んだ。


「あ、あはは!ちょっと用事があって…」


  そっかと微笑んだなまえは座っていた場所から立ち上がり教科書で重そうな鞄を肩に掛けた、徐々に進んでいく帰り道は家までそう遠くはない。公園が見えた辺りで体から冷や汗がどっと溢れる。会話も返事を返す事が精一杯でオレの頭の中ではありもしない用事の内容を考えていた。今から町に出たら帰りはかなり遅くなってしまうしまた緊急を要する話もない。素直に謝るしかないという結論に至りオレは意を決して立ち止まった。


「どうしたの?」


  黙り込んだオレを心配してくれたのか小さく顔を覗き込んだ。女々しいオレを笑うだろうか、なまえの前だと何も男らしい所なんて一度も見せる事はできなくてオレはなんとも情けない。


「違うんだ。ほんとは用事なんかなくて、ただなまえと帰りたかっただけなんだ。ごめん、ごめんね」


  なまえの優しさに甘えてしまった、なんとも情けない。素直に言えなかった事に対する羞恥と情けなさに思わず声が震えてしまった。前を向くとなまえは黙ってオレを見つめていた、閉じられた口が開かれた時ぎゅっと制服の裾を掴む。


「わたしてっきり、嫌な話かと思って身構えちゃった」


2012.1005