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ぜんぶぴんくにして


  付き合うってどんな感じなんだろうか、好きな人と思いが通じた時どのように感じるのだろうか。そんなキラキラと輝く瞬間、きっとドキドキして周りがピンク色に染まるんだ。わたしは二人の気持ちが繋がった瞬間を感じてみたかった。


  午後1時10分前、もうすぐ5時間目の授業が始まる。カツカツと勢いよくシャーペンを走らせるのは酷く焦っているからだ。破られたルーズリーフには何回も書きなぐられた英単語、そう、次の時間は小テストから始まる。ふと突然すっと出されたのは同じく整理された英単語が書かれた紙だった。カンニングペーパーらしきものを睨むとその主は大きく笑った。


「オレみたいに潔くカンニングしろって」
「わたしは晴矢みたいにずるくないから」


  例えば授業の前だとか晴矢と騒ぐのはもはや生活の一部である。いつも小テストはカンニングしてるくせに成績だけはいい晴矢とどう頑張っても晴矢には追いつけないわたし。そんなこんなでいつも晴矢は上から目線でわたしの事を見下してくる。まあそんな事はどうでもいいとして、きっとお互いがこんな貶し合いが楽しくてしょうがなくて飽きることはなかったんだと思う。


  一緒にいる時間も多くなってくるとこんなわたしにも恋というものをする。気の合う友達だと思っていた晴矢に特別な感情を抱いていると気付いたのは最近の事だった。わたしの友達と恋の話をしていた時「なまえと南雲くんはあやしい」と友達が零した言葉に最初は笑ってごまかした。そうしたらじゃあわたしは晴矢の事をどう思っているかなんていう質問が飛び交う。気付いたのはその瞬間、わたしの体はまるで火を吹くように熱くなって思わず手にもっていたマフラーで顔を隠した。わたしは知らぬ間に晴矢に恋をしていたのだった。というのも話せただけで幸せだとか見てるだけで幸せだとかそういう部類ではなくて、実はもうわたしと晴矢は恋人らしき枠に当て嵌まるような気もする。熱が出たらお見舞いに来てくれたり帰りはメールをし合って一緒に帰ることを約束したり、また晴矢が試合の日には見に行ったり見に来いとメールが来たりする。一緒にカラオケだとか暇だから家に来いだとかわたしは高校に入って晴矢とどだれけ一緒に過ごしたのか、数え切れない程だと思う。直接伝えたことはないけれど晴矢もわたしと同じ気持ちでいてくれていると思っていてもいいのだろうか、そんな乙女な事ばかりがわたしの頭を駆け抜けた。


・・・


「合コンのお誘いしてもよろしいでしょうか」


  は。友達が突然そんな事を言い出すものだからわたしの口からはなんとも間抜けな言葉を発した。しかも帝国学園と合コンだなんてこれ以上おいしいものはない!と言われるがわたしは適当に頷くばかりであった。人数が足りないと泣く泣く擦り寄ってきたのかと漸く理由を解明しわたしはとりあえずその約束を了承した。今週の日曜、とスケジュールに書き込もうとすると既にそこには『晴矢の試合』とスケジュールが埋まっていた。これじゃあ合コンは行けないなあと内心行かない理由が出来たと喜びながら「ごめん、予定あった」とわたしは合コンを断った。実は晴矢以外の人なんて考えられないわたしだった。


「はあ!?」
「でも晴矢の試合だったからね行かないことにしたよ」
「当たり前だろーが!」


  いつものように晴矢と帰る帰り道、わたしは今日の事を話してみると予想外の言葉が返ってきた。表情がコロコロ変わる晴矢は解りやすい人の典型的なものであると思う、まあそれを一言で言うと単純という言葉に収まるが。とりあえずわたしが合コンに行く事になったら大変な事になったのだと今の雰囲気から察した。


「オレがいるのによく合コン行こうなんて思えるななまえは」


  わたし達が別れる道に差し掛かるとそれまでぷんすか怒っていた晴矢はわたしの心臓を突き刺すような言葉を発したのだった。わたしはその瞬間固まりそれに気づいた晴矢は顔を真っ赤にした。やってしまったというような顔でポカンとわたしを見ている。この状況を笑ってごまかそうと「晴矢の応援団長はわたしだからね」と話を反らしたが少しだけ晴矢は顔を歪めた。けれどお互いに気まずい雰囲気は察したからこそ、それを元に戻そうとしどろもどろになったわたし達はさぞかし滑稽だっただろう。日曜楽しみにしてるから、とわたしが手を振ると晴矢はかっこよく右手を少しだけ上げて笑った。


・・・


  それから数ヶ月経った後わたし達はまだよく分からない関係を続けていた、まあ楽しいから大丈夫だろうと割り切っていたが最近そうとも思えなくなった。友達が顔を赤くして「告白された」とわたしたちに爆弾を投下してきたのであった。あの合コンの後からメールをしたり会ったりを繰り返し遂に告白され付き合ったらしい。わたし達は一斉に羨ましい!と声を揃えて騒いでいた。帝国学園の彼氏とか頭が良くて格好いいというイメージしかない、わたしは一層羨ましい!と叫んで友達を茶化したが「そんな事言ったってなまえの南雲くんだって格好よくて頭いいじゃん!」と今度は標的がわたしへと変わる。最近わたしの話を聞いていないと周りはどんどん騒がしくなっていくが逆にわたしのテンションはがた落ちした。わたしの南雲くん、と言われてもわたしと晴矢は付き合っているのか謎だからだ。周りから見てみれば仲良しなカップルとでも見えるだろうが、実際はどうだろう。わたし告白していないし告白されてもいない。そう伝えるとさぞかし楽しそうに周りは騒ぎ始める。南雲くん以外と奥手なんだね、となぜか周りが笑っている一方でわたしは話を流すことだけに集中した。女の子はこういう話が大好きなようである、様々な案が飛び交い勝手に結論付けられたのは『わたしが告白する』ことだった。まあそれを実行する気もないけれど。きっと今まで気にしてはいけないと分かってたから頭の隅に避けておいた事柄だったのだろう。気にしてはいけないと思いながらももう後には戻れなかった。晴矢と帰るいつもの帰り道、わたしは気になった質問を問いかけた。


「…お前本気でそれ言ってんの?」
「そ、そうだけど…いやわたしといつも一緒にいるから好きな人いないのかなって」
「…」


  その気持ちを伝えてみたら伝えたで今日の友達の話のようにわたしも爆弾を落としたような気がした。わたしなりに勇気を出してみたが裏目に出てしまったのだろうか、晴矢はそれっきり口を開かなくなってしまった。帰り道がこんなにも沈黙が続いた事なんてこれまで一度も無かったからわたしの心臓はものすごい音で鳴りはじめる。まるで告白をして返事を待っているような気分で段々と考える事も嫌になってきた、嫌な結果ばかりが頭をぐるぐる回り泣きたくなる。晴矢を見れば俯いて何か考えているような仕種をしつついつもより早歩きで進んでいく。わたしはそんな晴矢を見て視界が滲み始めた。その瞬間、晴矢は急に立ち止まり一歩後ろを歩くわたしの方へ体を向けた、ゆでだこという表現が当てはまるように晴矢は耳まで真っ赤にしていてわたしは呆然とした。


「一度しか言わないからな」


  まるで漫画やドラマの急展開についていけないように、わたしはただ驚いているばかりで。


「付き合ってください」


  その言葉でまるで時間が止まったように全てがスローモーションに見えた。


  未だ真っ赤にして視線を反らす晴矢が可愛くて思わず笑ってしまった。ちらりとわたしを見たのはきっと返事を待っている合図。ゆっくりと距離を縮めてわたしは軽く晴矢の肩に体を預けた。


11.0106