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好きだと伝えたとしたら


  あの時わたしたちの使命は終わった、お父様のためにと日々努力していたサッカーの練習も止められた。プロミネンスの一員であったわたしは人一倍努力していたつもりであったけれど、結局カオスにも選ばれず追放された。カオスに選ばれてまだサッカーがしたかった、という思いが強かったのか選ばれなかったことはわたしの強い記憶として残されている。そんな黒歴史はいいとして、グラン様やガゼル様達には到底及ばないけれど同等に試合できる力は持っていたと思う。わたしはサッカーが好きで練習してきた。上手い下手は関係なくてわたしは恐ろしくサッカーが好きだったのだ。


  帰ってきたおひさま園で一人サッカーボールを蹴っているのも日常だった。暇があればボールを蹴ってあの頃近くにあったグラウンドを思い浮かべる。サッカーだけであれば黒歴史さえ受け入れられたなあと思いつつわたしはボールを抱えて外へ出た。


「こそこそ何やってんだよ」


  近くの公園へと行こうとしていたのだが彼によって制止される。「瞳子に怒られる」とわたしを一喝するのはかつてのキャプテンバーン様であった。これからは晴矢でいいと言われるがどうしてもそうとは呼べない、わたしはこの方を一方的に距離を置いてしまっている。昔からバーン様に引っ付いていたわたしを知っている皆はそれを不思議そうに見ていた。みんなの予想通り、ずっとわたしはバーン様に好意を寄せていた。悩んだわたしはそれについて相談したが距離をとってしまう理由をイケメンすぎて直視出来ないんだろ!とヒートは冗談としか受けとってくれない。それからヒートに相談する事は止めた。まあ、どうでもいいけれどわたしはこの方が苦手となってしまって、大事なのは今ふたりきりという状況がとてつもなく耐え切れないという事だった。


「少ししたら戻ります」
「…だから、それが危ねぇって言ってんだろ」
「…わかりました、今日は止めておきます」
「今日はって、お前また出かけるつもりだろ」
「そうですが何か、」


  バーン様を睨みつけると、バーン様はニヤリと笑いわたしの手からサッカーボールを奪い取った。声にならない怒りを表すとわたしのボールにバーン様は足を乗せた。


「汚さないでください、やっと買えたんですから」


  表情を変えないようにそう言うと今度は上手にリフティングを見せつけ始めた。あんなのわたしだって出来る、と拳を作るとわたしはそのボールを綺麗に奪ってみせた。驚いている彼の顔を見てちっぽけな事だけれど嬉しくなった。実際バーン様とこんなに話をしたのは久しぶりなのかもしれない、ドキドキと高鳴る胸と一緒にわたしは少しだけ嬉しい気持ちを募らせていた。


「なまえが捻くれたのはいつからか?前は晴矢!晴矢!って着いてきてたのにな」


  昔のわたしを掘り返されたせいかわたしの顔は真っ赤になった。止めて下さい!と叫ぶとバーン様は気持ち良さそうに笑う。でも何処か寂しそうだった。


「これからしばらく此処も離れる事になるんだけどな」
「…来週ですかね、早いですね」
「ああ、見送り来いよ」
「嫌です」
「おま、即答かよ」
「でも、風介くんが行くから仕方ないです、行きますけど」


  風介くん、と名前を出すとバーン様の眉がぴくんと動いた。風介も同様に韓国代表としてFFIに出場する。その練習のため二人は日本を離れて近々韓国へ旅立ってしまう。バーン様と風介くんには内緒でみんなで寄せ書きなんかも書いて、応援しようとプレゼントも瞳子さんに頼んで買った。もちろんリュウジとヒロトくんの分もだけれど二人は寮だから郵送する予定である。そんな事を思いながらわたしはもう真っ暗になってしまった空を見上げた。捻くれた理由なんて自分が一番分かっている。自分がこの方に着いていきたいからこそ最初はサッカーを頑張ったなんて、口が裂けても言えないけど。


「なんで風介は、ガゼル様じゃねぇんだよ」


  ほいきた。さっきのバーン様の表情から来ると思った質問。わたしはなんとなくですと答えるとバーン様の機嫌はより悪くなった。わたしがこんなに捻くれて一方的に距離をとっていても、バーン様は何かと関わってきた。わたしが何かと距離を取りはじめたのは実際それは最近の事だけれど、それは受け入れる事が出来ない事実があったからだ。サッカーで結果が出せない自分にもいらついたし、わたしは必要とされない事を恐れて殻に篭ってしまったんだ。


「なあ」
「なんですか」
「分かってるんだ」
「はあ」
「なまえがオレを避けてる理由」
「…避けてないです」
「そろそろいくら何でも、オレでもメンタルやられるっていうか、」
「ちが、」


  貴方が悪いと思っていたかった。思いたかったけれどそれはわたしのせいで誰も責める事なんて出来ない。少しでも長く一緒にサッカーをしたいとずっとサッカーをしていたのに、ジェネシスがガイアに決まってわたしはそっと追放された。といえどもおひさま園に帰されただけだけれど。


「あの時、選んでやれなくてごめんな」


  ーーーそう、カオスに選ばれなかった事は未だわたしの強い記憶として残っている。



  八つ当たりだと思えば恥ずかしくなった。バーン様のこんな言葉聞きたくなかった、もっと自分が惨めになるだけだった。


「…わたしもFFIに出たかったんです」
「話を変えるな、それに女子は参加不可だろ」
「分かってますよ」


  わたしはずっとバーン様を見返したかった、でもサッカーが上手くて男の子で出たかったFFIにも出場することが出来るバーン様にはわたしなんてちっぽけで。どんどんわたしは惨めになるだけだった、せめて昔のように戻る事が出来たらなあと呼び方を変えようと努力したけれど、いざ前にすると出来なかった。


「…選ばれなかったのはわたしの力不足なんですから、」


  気にしてないと言えば嘘になる、混沌とした気持ちをどう表したらいいか分からなかった。プライドが高いっていうのも厄介なものだ。


「だけどな、お前あん時怪我してただろ」
「…」
「選べるわけねぇだろ、オレが気づいてないとでも思ったか」
「…なんで」
「お前の事なら、わかる自信があるんだよバーカ」


  額を勢いよく突かれ咄嗟に閉じてしまった目を開くと、あの頃と何も変わらないバーン様がいた。わたしはつん、と鼻の奥に痛みを感じる。


「頑張ってた事もきっとオレが一番知ってる」


  わたしのボールに触れるとそのままわたしを抱きしめた。一緒に一秒でも長くサッカーがしたかった、貴方が居なきゃ意味がない。FFIで選ばれなかった理由が女子であることが憎くて仕方なかった、わたしも一緒に世界に、行きたかった。いつも遠くにいく晴矢が怖かった。わたしは寂しかった。


  顔をくしゃくしゃにしてわたしは泣いた、唇を噛み締めて嗚咽を堪える。溢れる涙を晴矢がすくった時わたしは漸く晴矢の顔を直視した。「ひでぇ顔」と罵るけれどその顔は優しくて、思わずわたしは晴矢の背中に腕を回した。小さい頃よくこうやって抱き着いていたのに、今はこういう行為すらもドキドキして周りが見えなくなる。わたしの腕からボールがこぼれ落ちて小さく弾んだ。


・・・


「呼んだかー?」


  晴矢と風介くんが部屋に入ってくるとパン!と大きくクラッカーの鳴る音が響く。二人は凄く驚いていてさっと渡される寄せ書きに目を奪われていた。机にはごちそうと呼ばれるだろう料理がずらりと並んでいて、わたしたちは早く早くとお預けをくらっていた。おめでとう&頑張って会という明日韓国へ旅立つ二人のために用意したものであった。『頑張ってね』としか書けなかった寄せ書きに悔いしか残らないわたしだったが、何というか、まだ幼いわたしという事にしておいて、今どうしても寂しいという思いが強くて泣きそうだった。今誰かと話したらきっと泣いてしまう、一生の別れなんかじゃないのに寂しくて堪らなかった。じわじわと溢れる涙に我に帰って我に返り、そっとトイレのふりをして外に出た。


  安心していたのもつかの間。わたしの一番の悩みの種が直ぐに現れた。そっとわたしの髪をわしゃわしゃと撫でるのは一人しか居ないからだ。その手の温かさにわたしは我慢出来ず震えた。止めることなんてわたしには無理だった。


「晴矢、寂しい、よ」


  わたしが恥ずかしさを捨ててそう言うと、晴矢はあの時のように優しく抱きしめた。ただ違うのはその強さで、お互いがお互いを求めるようにしがみついた。少し成長しても、あの時捻くれても、わたしはちっとも晴矢から卒業出来ていなかった。そんなわたしに晴矢はわたしに優しく言った。


「なまえが此処にいる限り、オレは此処に帰ってくる、だから待ってろ」


11.0119