×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

ビッグバン


  死に物狂いで勉強して夢にまで見た大学生活。毎日好きなことを勉強してサークルにも入って…自分の力でお金も貯めてわたしにはやりたいことが沢山あった。あわよくば大学で素敵な人と出会って恋をしたい、笑顔が素敵で優しい人に出会いたい、そんな期待を膨らませていた。


「やあなまえちゃん、偶然だね」


  一人暮らしを始めたわたしは大学の最寄の駅の近くでバイトをしている。時々残業もあるしバイトが終わる時間は夜遅くになってしまうこともあった。


「今日もバイト?オレもなんだ」


  今日もまた同じ台詞を聞きながらわたしは引き攣った笑顔で目の前の人に笑いかける。毎日毎日バイトが終わった後駅に向かうと、赤い髪のイケメンという種に値するだろう人に確実に会うのだ。


「き、基山くん…偶然だね…」


  わたしがそういうと基山くんは笑った。笑顔がとても素敵な基山くんとは同じ学部で同じクラスである。入学式の打ち上げのためのクラス会で少しだけ話した事があるだけだったが、その後バイトを始めてから数ヶ月、その帰り道に「偶然だね」という言葉と一緒に飽きるほど基山くんと出会う事になった。バイトがいつ終わるかは知らないはずなのに基山くんとは毎日バイトが終わる時間が同じなのだ。
  これは何かがおかしいと思い始めて隠れながら歩いているとバイト近くのカフェで基山くんを見つけたのだ。じっと外を見つめている姿にわたしは驚いてその場から逃げるように走り去る。うまく木に隠れてカフェを通り過ぎる予定だったが、その途中目が合った事によりカフェを出てきた基山くんは嬉しそうにわたしの隣を歩いた。こんなストーカーのような彼に好かれる大学生活の予定は全くなかった。…イケメンだから許されるという事は全くない!むしろこの毎日をどうにかしてほしいと願うばかりである。


「今日は帰ったら何か作るの?」
「わたし?今日は…」


  自炊するつもりだよ、そう言うはずだった言葉をぐっと口に押し込んだ。条件反射のように自然とその言葉を飲み、冷や汗がどっと溢れ出す。以前夕食の話になった時に一人暮らしをしている事がばれたのだ、自炊するなんて言ったら『なまえちゃんの料理食べてみたいなあ』と基山くんならば言い兼ねない。そうとなったら夕食食べたい攻撃をするに違いない、危険だ。わたしは平然を装い疲れたから今日はお弁当を買って行くと近くにあるスーパーを指差した。基山くんは終始嬉しそうにわたしを見つめていた。


「よかったら俺の家でご飯食べない?俺も一人暮らしだから」


  その瞬間わたしは絶望した。どうしたことかそっち路線で攻めてきたようだ。危険信号は頭の中でかつて無いほ勢いよく赤を示していた、此処でわたしは基山くんの新たな情報を手に入れてしまった。


「…今日は、遠慮しておくよ」


  今此処で基山くんの家でご飯をご馳走になってしまったらわたしは夕飯とともに食われてしまうだろう。その瞬間寂しくて耳が垂れている子犬のような基山くんを見てまるで針で突かれたように心臓が痛くなる。思わずわたしは「こっ今度食べに言ってもいい、かな…?」と言ってしまった瞬間、パアッと効果音でも鳴りそうなほど基山くんは笑顔になった。


「じゃあ、こんど俺の家においでよ!」


  ついでに連絡先も教えてほしいな。まんまと引っ掛かったわたしはご飯の約束と連絡先を交換してしまった。同情したわたしが馬鹿だった。


・・・


  人数が少ないからと参加を断っていたクラスコンパに嫌々ながら参加する事になった。何よりお金がない事も理由であったが昨日のメールで基山くんがこのコンパに参加する事も原因であった。基山くんはわたしのクラスでも学部でも騒がれるほどの人気者である。そんな事を知ってもわたしは彼が不気味で仕方がなかった。友達にも基山くんの連絡先を知っている事にも羨ましがられるほどであるが、わたしにとっては羨ましいものではない。


  嫌々ながら参加したわたしはふらふらする程酔っ払ってしまった。久しぶりに参加した事で、クラスの人と話す機会も多くなりつい弱いくせにお酒を飲んでしまった。わたしは外に出た後も顔の赤みが引かずしゃがみ込んでいた。


「大丈夫?」


  悪魔の声が聞こえた。実際わたしの隣に座ったのは基山くんでわたしにお酒を飲ませたのも基山くんであった。頭の中で危険信号がチカチカと光っている。


「俺なまえちゃんと家近いから送ってくよ」


  終わった。友達もわたしを心配しているのかように基山くんにお願いしていて断る事も出来ず座り込んでいると、全然歩けるのに基山くんはわたしの手を取って腰を寄せた。もう一度言おう、終わった。後ろから冷やかすような声ばかり聞こえてわたしは更に顔が熱くなるのを感じた。隣の基山くんを見てみると清々しい笑顔でわたしを見つめていた。またしてもやられた。


「大丈夫?顔赤いけど」
「基山くん…わたし歩けるよ」
「俺がこうしたいんだけどダメかな」
「…そんな顔、されても」
「その顔、すごくそそられるんだよね」


  寄せられる体と整った顔が近すぎて心臓がおかしくなりそうだった。やめてくれ!と心の中で叫ぶけれど体が固まって身動きがとれなくなった。基山くんは考えている事が恐すぎるんだ、誰でもこれで食えると思ってるんだろうか。


「基山くん、ではさようなら!」


  なんとかしてわたしの家に泊まる事だけは阻止しようと、家の近くで無理矢理手を振って走り出した。自分でもなんという雑な挨拶だと反省したがそれどころではない。


  後ろを振り向いて追って来ない彼に思わず大きくガッツポーズした。わたしは初めて基山くんに勝ったのだった。家に帰ってわたしを心配するような言葉と『明日楽しみだよ』という意味深な言葉がメールで送られてきた。初めて彼に勝った事が嬉しくてわたしは特に考えることもなく上機嫌で返信をした。ざまあみろ基山ヒロト!


・・・


「昨日どうなったの?基山くんと」


  ポカンとするわたしを余所にクラスコンパに参加していた友達は質問を投げかけた。どうなったのってどうもしないけれど。冷めた声でそう答えると「じゃあ基山くんに送られてときめかないわけないでしょ」決めつけられたように基山くんについて語る友達に基山ヒロトの本当の姿を教えてあげたかった。あのひとの表の顔はストーカーもどきだと言葉が喉まで出かかった瞬間だった。


「昨日は大丈夫だった?なまえ」


  は?突然声をかけられたと思いきや話題の主がわたしの前まで現れおまけに突然わたしの名前を呼びすてをしはじめ、髪を撫でた。その光景を見ていた周りはざわざわと騒がしくなった。わたしは呆然と基山くんの事を見つめることしかできなかった。


「基山くんと付き合ったの!?」
「だから本当にそんなことないんだっ、」
「うん実は昨日から」


!?


  わたしは驚いて基山くんを再び見つめるとふわりと笑う。それはそれは表面上でだけれど。素直に言えばいいのにと周りは質問ばかりしてくるけれどわたしは状況に着いて行けず立ち尽くしていた。我に帰り基山くんを教室の外へ連れ出すと先程の笑みとは全く逆の、例えればにやりという言葉が似合うような笑みを浮かべた。その表情に体を強張らせると「ちょっと怖がらせてみただけだよ」と基山くんはおちゃらけてみせた。


「だからどういうつもり?」
「なまえは嫌なの?」
「だからね、なんでいきなりそんなことにならなきゃいけないの」
「俺は1番最初のクラス会の時から好きなんだけどな」


  一瞬たじろぐとそこに付け込むかのようにどうかな、と基山くんは顔を近づける。


「君は俺のものになる運命だったんだよ」


  全てのことが計算されたかのように落ちてやるもんかと思っていたどわたしの体は一瞬で熱くなった。


  結局基山くんには敵わないのであった。


10.1229