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好きになるまであと


「涼野くんってなまえのこと好きだよね」


  お弁当を食べていた箸が止まったのは、友人の一言だった。

「どういうこと?」
「そのまんまの意味だって」

  首輪傾げて考えるが好かれていると感じたことがない。彼女はどこをどう見て涼野がわたしのことを好きだと言ったのだろう。


「ないよ、何考えてるか分からないし」
「でもなまえ、あの涼野くんと連絡とってるんでしょ」
「とってることはとってるけど」


  確かにたまに連絡はとっている。連絡先を交換したとき涼野もラインするんだ、と思ってしまった。その予想通りで涼野は何を聞きたいのか理解出来ない話を振ってくる。最近だってそうだ。夏休みが終わり学校で顔を合わせたからか、昨日涼野から連絡が来たのだ。


『夏っぽいことがしたかった』
『部活で体動かすのも夏っぽくない?』
『部活は部活だ。なまえは遊びに行ったのか?』
『夏っぽいことしてないかも』
『そうか』


  いやいや。そうか、ってどういうこと。


「涼野って、わたしに何を聞きたいのか分からないんだもん」
「何が何が?」
「普通さ!好きだったら直球で誘ってこない?しない辺りお察し」
「なまえも気にしてるんだー」
「気にしてない!」
「うんうん、涼野くんのこと好きなんだね」
「だから好きじゃないって!」


  満面の笑みでハートを飛ばしてくる友人は、いいことを聞いてしまったとでも言うように頷いていた。かというわたしは話すつもりは無かった事を話してしまった後悔に苛まれていた。「はい、もうこの話おしまい!」と無理矢理話を反らせどしばらくはこの話題で弄られそうだとため息をついた。

  友人の言う通り気にする辺り、涼野の事が好きだと思う。気付いてはいるけれど、認めたくない。涼野がわたしの事を絶対に好きだという自信がないから。こんな気持ちにさせて実は違いました!なんて虚しすぎる。


  こんな気持ちのままじゃ涼野と顔を合わせた時普通に話す事なんて出来ないなあ。


「あ、」
「…あ、」
「…」
「…」


  …なんて思っていた時にこそ顔を合わせますよね!分かってました!
  そう部活が早く終わったのはわたしだけじゃなかったのか、涼野と校門前でバッタリと顔を合わせた。げ、と気まずい表情をしたのはおそらくわたしだ。その証拠に涼野はピクリと眉を動かし、無表情ながらも不機嫌なオーラを感じ取った。涼野が息を吸った瞬間、わたしは右手を上げ何もなかった様に笑顔を作った。


「じゃあ、また明日」


  これ以上何も言わせまい。そう言えばくるりと涼野背を向けて校門を潜り抜ける、はずだった。背を向けるはずが、涼野はわたしの腕を行かせまいとでもいうように掴んだのだ。

「え?」
「あ、」
「…え?」
「あ、ちょっと」

  いやいや、ちょっと、じゃなくて。それよりいつまで掴んでるんだ。

  心の中では何度もツッコミを入れているのに、わたしの顔は恐ろしく乙女な顔をしていると思う。好きな人に呼び止められて、二人きりだなんて恋愛イベント発生!のような展開だ。しかし涼野はいつものトーンで「私は今年夏らしいことをしていない」なんて言ってのけるから、結果イベントなんてものは無かったのだが。


「…う、うん、わたしも」
「今月、秋祭りがあるから、行ってみようと思ってね」
「稲妻町の?へえ、」


  なんだ、結局昨日のLINEの続きじゃないか。律儀な人だなぁと涼野の言葉に頷くと、未だに掴まれている腕に力を入れた。


「絶対に、後悔させない」
「へ?」


  へ?とまぬけな声を出した時、あの涼野が照れたように顔を赤くした。


「一緒に行ってくれないか?」


  うそ、でしょ。あれだけ今日分からないと嘆いていたのに、まさかお誘いを受けるなんて。けどまだ涼野がわたしのことが好きだと確信したわけではない、期待してはいけない、いけないんだ!


  なんて思っていたのにも関わらず、わたしはすんなりとその問いに頷いていた。


2017.1017