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落ちるにはもってこいだ


  名門帝国学園高校に合格したと聞いて一番驚いたのはわたしの両親だった。わがままを聞いてくれて受けさせてもらったけれど、まさか受かるとは思ってなかったのだと思う。入学のための制服採寸など初めて帝国に訪れたお母さんは緊張してわたしがすべて案内してということだ、特別お金持ちでもないし貧乏でもない。わたしの家はいたって平凡だった。中学から帝国に入れている人はわたしなんかよりも頭がよくてお金持ちなんだろうな、と勝手な妄想を母と膨らませるばかりである。

  入学案内として親とともに学校へ訪れることとなった。「帝国学園高校がゴールではない、ここがスタートとして頑張ってほしい」と校長先生が述べた言葉にびくびくしつつもわたしはこれから出来る友達にわくわくしていた。クラスがもう決まったわけじゃない。親と別れて受験番号順に並びつつ教室に向かうと、わたしは静まった教室に入り座った。様々な提出物を提出しつつわたしはきょろきょろと周りを見渡していた。きゃあきゃあと騒いでいる女の子達に焦り、これから先友達が出来なかったらどうしようと不安に駆られた。きっと中学も帝国でそのまま仲良しで集まっているんだろう。ぎゅっとスカートを握り締めると、前の席からとんとん、と指で机を叩かれる。それに反応してわたしは勢いよく顔を上げた。


「おーい提出物だ」
「…あ、ありがとう」


  前から回ってきたプリントを渡すだけなのに、緊張してなかなか回せない。前の男の子を見るとくすくすと笑っていてわたしはすごく恥ずかしくなった。「ちゃんと回せたか?」そう意地悪に問われると恥ずかしくて顔が沸騰しそうになる。「回せました!」と勢いよく言うと男の子は笑って前を向いた。全身の力が抜けていく、強張っていた腕を見つめると握りすぎたせいかほんのり手の平は赤かった。社交的な子だな、と思いつつわたしは男の子の背中を今度は穴が空いてしまいそうなくらい見つめてしまった。


「…オレの背中に何かついてるのか?」


  男の子は振り返り呆れたように笑った。慌てて謝るわたしはあなたの名前を教えて下さい、とも言えずに先程の挙動不審に逆戻りした。ふと机の上に名前が書いてある事に気づき男の子の名前をチラリと見つめてみる。『佐久間次郎』顔にピッタリ合った芸能人かと思うほど綺麗な名前だった、さくまくんと口を動かしてみるとまるで好きな人を呼んでいるみたいにくすぐったくなった。それから席の近くで何人かの女の子とも仲良しになれて、アドレスを交換したりしていた。ふと前を見ると佐久間くんは沢山の女の子達に囲まれて慌てていた。


「佐久間くん人気なんだね」
「しらないの!?佐久間くんはFFIの日本代表で活躍したヒーローだもん」
「そうなんだ…わたしとは次元が違うのね」
「中学の頃からすごく人気だったからな佐久間くん」
「じゃあ高校はもっと人気になるのかな、くそー」


  なんでわたしが悔しがるのかと今日仲良くなったばかりの友達に笑われてわたしはなんだかそれすらも嬉しかった、まあ佐久間くんという超人気の芸能人がわたしの前に座って下さった事が奇跡なのかな、ありがとうございます。わたしなんかとお話してくれてありがとうございます。と心の中で佐久間くんに言うとふとわたしは佐久間くんの携帯のストラップに目を疑った。水族館にあるようなペンギンのストラップが二つ。わたしはそのストラップを見つめてわけもわからず赤面した。すごく綺麗な顔立ちに似合わず可愛いペンギンのストラップだなんてわたしはギャップでもはやKOしてしまった。佐久間くんの隣の男の子に「これ可愛いだろ!」と自分のペンギンを自慢している姿はそれはもうわたしにとって天使に見えました。


  わたしもあの中の大勢と同じように佐久間くんのファンになってしまった。「佐久間くんと同じクラスになりたいなあ…!」「わたしなんかもう運使い切っちゃったから同じクラスにはなれなさそうだなあ」そうといえどもわたしは佐久間くんの事が頭から離れなかった。


・・・


  友達が出来たよ、と胸を張ってお母さんに言うと嬉しそうに笑った。校門を出る瞬間わたしは佐久間くんの姿を視界に入れて、にやけていた。帝国の有名人に今日は会えたんだ、ラッキーすぎる。入学式の時もまた仲良くなれたらいいなあと思っていると佐久間くんは調度わたしの方へ振り返り、偶然目を合わせた。体に電流が走ったように動けなくてお母さんは不思議そうに見ている、わたしが何も出来ずにいると佐久間くんは殺人スマイルてわたしに軽く手を振ったのだった。


「同じクラスになれるといいな、入学式は挙動不審になるなよ」


  わたしは首が契れてしまうのではないかというほどぶんぶん縦に振ると佐久間くんは笑って去って行った。とりあえず今から水族館に行ってペンギンのストラップでも買ってこようと思った。


2017.0925