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躊躇った愛してるでも良い


「…止めてよそんな冗談」
「…冗談、なんか」
「風介さ、そんなの笑えないよ。おもしろくない」


  学校が終わるといつものようにおひさま園までの道を歩いていた。隣で楽しそうに笑う彼女の姿を見て、いつかこの道を一緒歩くこともなくなるのだろうか。なんてそんなことを考えていた時、私は無意識になまえへの気持ちを声に出していた。『なまえのことが好きなんだ』そう言った瞬間、彼女の表情が消え返ってきた返事は残酷なものであった。驚きから無になった感情は焦りに変わり、視線をあちらこちらへと動かす。しまいにはくっしゃくしゃで下手くそな笑顔を見せてくるわけだ。まるではやく否定しろとでも言うように。


「そうだね…なまえにこんな事を言うのは間違ってたよ」
「そうだよね、びっくりしたよ、急に」
「お前なんかに本気で、告白するか」


  否定するしかない状況によって、その話は流されて気付けば私の告白は無かった事になった。本気だと一言言えば良いのにも関わらず、徐々に顔を歪ませていくなまえに耐え切れず乾いた笑い声が響く。「そ、そうだよね!風介がそんなこと言うわけないもんね」びっくりした、と私の背中を叩いて無理矢理笑顔を作る彼女はまだ冗談であると思っているのだろう、いや冗談であって欲しいのだろう。

  私はなまえも同じ気持ちで居てくれていると思っていたんだ。一番に理解した事はつまり、私の一世一代の告白は失敗に終わったのだ。


・・・


「風介、」


  翌朝朝ごはんの時間より少しだけ早く向かうと小さく私を呼ぶ声にビクリと体が跳ねた。何時ものように私の背中にダイブするような元気な挨拶などではなく、まるで昨日の事をもう一度嘘だよね?と問いかけているかのようだった。そんななまえの気持ちを察してか私の口からは自然と何時ものような挨拶を口にしていた。


「また、寝坊か?」


  口元を釣り上げて笑えばなまえは嬉しそうに私の隣を歩いた。これでいいんだ。彼女とまた共に過ごせるのであればそれでいい。


「風介!」


  嬉しそうに私の名前を呼び定位置である私の隣へ駆け寄った。ああ、これが最善の策だったのだろうか?そんな悩みが胸をきりきりと苦しめる。我慢する事でなまえの側に居られるなら容易い事だ、私は昨日の告白を後悔しているのだから。


  しかしこの考えは一瞬のうちに砕け散った。あれだけ仲の良かった私となまえは一週間経たないうちに会話さえなくなってしまった。


・・・


「あなた達、喧嘩でもしたの」
「していないよ」
「…それならいいけれど、何かあるなら話す事も大切よ」
「…分かった」


  瞳子姉さんに呼び出しをされた時何を話されるか何となく分かっていた。それは私がなまえに今まで通り接する事が出来なくなってしまったから。登下校はもちろんおひさま園に戻っても共に過ごしていたというのに、今私は彼女の顔を見る事が出来なくなっていた。顔を見るだけで下手くそな笑顔を思い出し、吐きそうになるのだ。彼女は私が避けている事に気付いているが無理に前と同じように声を掛ける。今は君の顔など見たくないというのに、だ。そっとして置いて欲しいのに。


「…風介」
「…」
「あのね、ここ、分かんなくて、あとで風介の部屋行っていい…?」


  今日はここにいたか。そう思って私は目を伏せる。お風呂上がりか髪を少しだけ湿らせたなまえが部屋の前に座り、私を見るや否や立ち上がる。湯冷めする格好で何をしている、と思いため息を吐くと彼女は体を強張らせた。


「悪いけど、今日は疲れているんだ。ヒロトか晴矢に頼んでくれないか」


  流石に悪いとは思っていた。しかし長年積み重ねた恋心は簡単には消えてくれない。仕方の無い事なんだ、と言い聞かせてなまえから視線を逸らし部屋のドアを開けようとした。しかしその瞬間、その手を勢いよく掴まれた私は身動きが取れなくなる。少し上目遣いの彼女はくしゃくしゃの顔で笑う。「風介、あのね、あの、」まるで今にも泣きそうな程、眉は垂れ下がり何かに怯えるように私の腕を掴んだ手は震えていた。言葉を選んでいるのか、何かを言おうとしては何度も口を開けては口を結ぶ。その姿にイラつきを感じたのは、私が彼女の事をまだ忘れることができないせいだ。


「言いたいことがあるなら早くしてくれないか」


  これ以上私の前に現れないでくれないか。なまえの手を振りほどき自室に足を進める。部屋を勢いよく閉める瞬間、微かに見えたのは彼女の目からボロボロと溢れ落ちる涙だった。


・・・


  学校の課題を終わらせてしまえば先ほどのなまえの顔が頭から離れない。自分で突き放したくせに、彼女の下手な笑顔を見るのだけは苦しかった。言いすぎただろうか、そう思うと中々予習は進まず思い切り教科書を閉じた。シャープペンがその衝撃で机から落下しても拾う気にならなかった。もう予習などする気は更々無く、椅子から立ち上がった。私はなんだかんだ彼女に対して甘いのだろう。

  思い立った私はなまえの部屋の前まで来てそのままノックをする。流石に先ほどの態度は私が悪い、謝るだけ謝りここを去ろう。彼女の名前を呼べば「風介?」と声が聞こえた。


「さっきはごめん」
「…っまって!今開ける」
「いや、それだけだよ、もう戻る」
「まって!」


  勢いよくドアが開いた。そして先ほどと同じように私の腕をなまえが掴んだ。彼女は泣いていたのか目が赤く、痛々しい顔をしていた。その顔を見て思わず体が固まる。


「風介、まってお願い」
「…」
「まって」
「…わかったよ、どうしたの」


  震える声で言われてしまえば根負けだ。ため息をついてなまえと視線を合わせた。彼女はまた俯き言葉を選んでいく、そして震える声で
言葉を紡いでいく。


「どうして、避けるの」
「…避けていないじゃないか」
「避けてる!あの日風介が冗談を言った日から!」


  『冗談』という言葉は私の心に深く突き刺さる。あの日のなまえは私をドン底まで突き落としている事を彼女は知らない。私のこの気持ちさえ行き場をなくしてしまった。自然と作っていた握りこぶしを解き落ち着けとでもいうように前髪を研ぐ。後悔ばかりだけどあの日の言葉に嘘はない。


「…なまえは、まだ冗談だと思ってるんだね」
「…」
「冗談じゃないと言ったら、君も私を避けるだろう」


  前髪から手を下し再びなまえと視線を合わせれば彼女の目が大きく見開かれる。今にもこぼれ落ちそうなほど涙が溜まり、切ない想いが込み上げる。まるで心を指で触れられているように痛くて堪らなかった。


「だから今まで通りは、出来ない」


  小さくごめん、と呟いて背を向けようと俯いた時、なまえは私の服の裾を掴み俯く。そして続けて息を吸い込んだ。


「びっくりしたの、考えた事がなかったから」
「…」
「でもね風介が居ない日なんて初めてだったから、ずっと考えてたの」


『なまえのことが好きなんだ』


  あの日からずっと胸がドキドキしてて、風介と話したくて堪らなくなった。でも段々と風介はわたしを避けるのを嫌でも感じた。それでも何故かわたしは話したくて会いたくて、でもこの気持ちが何なのか分からなかった。風介が離れていった事が悲しくて苦しいの。


「風介が居ないと全部楽しくないの、これって」


ーーーわたしは、風介が好きって事なんじゃないかなあ?


  そう言ってボロボロと泣きだす彼女は片手で涙を拭いながらも、私の裾を掴んで離さない。


  手をその上から包めば胸の膨れるような心地よさを感じる。

なんだ君も私と同じだったんだ。


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