「夜ネコ」かりんさまより相互記念に戴いた小説です(*^^*)
リクエスト内容
「二人きりで一緒にお風呂に入る事になってしまった、まだデキてない室町文→←食満」





犬猿の湯




夏の夕暮れ、暑さが若干和らいだ頃に漸く… 用具委員会も終わりを注げた。 今日は文次郎の開けた穴の修復で余計に時間 が掛かってしまい留三郎のストレスは半端で はなかった。 後輩達は先に上がらせて仕上げは自分一人で やったために、納得の行く仕上がりにはなっ たが……… 張り紙で、『漆喰塗り立て。壊さないように 。特に会計委員長』と当て付けの内容の注意 を隣に張り付けた。 指先は漆喰や土で汚れ、身体全体もこの暑さ だ。汗でぐっしょりと濡れている。 不快なことこの上なかった。井戸水を被ろう かとも思ったが、昼ならともかく夕方は風邪 を引いてしまう可能性がある。 明日は実習もあるからそれは避けたい。

それならば………

「……少し早いけど。先に風呂行くか。」

長屋の部屋に着替えと手拭いを取りに行く。 伊作には食堂に誘われたが、こんなに汚れて いては他の生徒の迷惑になると断った。 今からいけばきっと一番風呂だろう。たまに は熱い風呂に一人のんびりも良いと留三郎は 鼻唄を静かな廊下に響かせ風呂を目指した。

一方、そのころ六いの部屋では文次郎もまた 御風呂に行く準備をしていた。腹が減ってい たから先に食堂に行きたかったのだが……… ここの所忙しくて風呂は裏山の川や滝だった 為にソロソロ入らなければならなかった。本 来は食後でもよいのだが。 同室のS.Tからそんな何日もちゃんとした風 呂に入らない身体で食堂に入るなと罵倒され た。 ちなみに、文次郎は今日も寝不足である。風 呂より先に布団の中の方が優先されるような 気もするが、文次郎は一味違う。 何故なら、彼は地獄の会計委員長だからだ。

「風呂にサッと入って直ぐに出て……飯喰っ て…………さすがに今日は寝るか。」

静かな廊下に、ギンギーンと声を響かせなが ら風呂場へと………匍匐前進で進んで行った 。

ここは風呂場の脱衣所。一人分の忍び装束が 脱ぎ籠の中に置かれている。 奥では、ザザーと桶に入れたお湯を身体に掛 ける音がしていた。お湯である程度の汚れを 流した留三郎は髪の毛を濯いだ後、ヘチマで 身体をゴシゴシと磨いていく。 夏場だとどうしても汚れが溜まりやすく、更 には修理作業に使った漆喰などの汚れもプラ スされている。いつもより丁寧に時間をかけ 洗わなくては。 可愛い後輩達に汚れた湯に浸からせる羽目に なる。それだけは最上級生として避けなけれ ばならない。

「こんな所か………」

身体を隅々まで洗い終えた留三郎は再び桶で 湯をすくい頭から被って完全に汚れを流した 。 漸く待ちに待った一番風呂。足先をゆっくり 入れ熱さに震えた、次の瞬間!

ガラガラ………バタバタ……ガタンっ!

「留三郎!一番風呂は、俺が入る!ギンッギ ーン!!」

後ろをビックリして振り向けば、勢いよく扉 を開けた文次郎がこちらに向かって手拭い一 枚で一直線に走ってきた。

この時の留三郎の思考は……

・げっ!?文次郎!

・まさか、夫に一番風呂を譲れという関白宣 言か!

・相変わらず逞しい身体!?

・こっちにくる。ま、待ってくれ心の準備が !?

・あれ?あいつ身体を洗わずに一直線に湯船 に………

・多分あの鍛練バカだ。身体は川や滝で流し て終わりの筈。

・そんな身体で入ったら…そのあと湯船に入 る後輩達が汚れる!?

「させるかぁぁ!ケマトメフラッシュ!」
「グオッ!?」

留三郎は両手を前に突き出して文次郎を突き 飛ばし防いだ。文次郎は入り口付近まで転が って行った。 ちなみに、ここまでの時間にして約2.43秒の 事である。 いくら密かに想いを寄せている相手とはいえ 、壁を壊された苛立ち、折角の一番風呂を邪 魔された怒りは混ざりあい、留三郎の頭には 絵にかいた様な血管マークが出ている。 一方、文次郎も早く出て早く飯を食べて早く 寝たいのに留三郎の、文次郎からしたら超絶 可愛いけどすごく痛いケマトメフラッシュを 受けてご機嫌ななめである。

「留三郎!俺の邪魔をするな!ギンギン連打 拳パンチ!」
「逆ギレすんな!大体な…………?」

むしろ被害者は俺だと文次郎に講義しながら パンチを避けたり受け止めていた留三郎 、異 変に気づいた。 文次郎のパンチがいつもより威力がないのだ 。ケマトメフラッシュのダメージが残ってる にしたって弱すぎる。 何処か具合でも悪いのかと心配になり顔色を 覗いて気づく。隈が……濃い。

「文次郎………お前、何徹目?」
「ふんっ、五徹だ!ヘタレには真似ができん だろ!」
「………うん。(そりゃ、体力なくなるまで やらねぇよ。)」

何だか呆れて怒る気力を無くした留三郎は素 早く文次郎の背後を取った。今の文次郎の感 覚からしたら留三郎が瞬間移動で消えたかと 思うくらいだ。 後ろから留三郎は軽々と文次郎の両太股を掴 み軽々と持ち上げた。何て恥ずかしい格好を させるんだとジタバタ文次郎は暴れている。 しかし、今の体力では留三郎は退けられない 。そのまま文次郎は御風呂の椅子の上にドン ッと勢い良く落とされた。痛みで動きが止ま る。

「〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
「ほら、洗ってやるから大人しくしてろ 」
「………何だと!?」

願ってもない話である。

「熱っ!!もう少しゆっくりかけろ!」
「地獄の会計委員長がこれくらいの熱さで文 句を言うな!」

一番風呂はもう暫しおあずけかと留三郎は我 慢して文次郎に桶で湯を掬って頭からかけた 。何か文句を言っている様だが気にしない。 所詮、今の文次郎はひ弱だからである。最初 は頭からだと、文次郎の髪に触れた。遠巻き から見る分にはそこそこ綺麗だったのに…… 手入れをサボれば、このザマである。 普通なら二度洗いで済む所を、留三郎は念を いれて四回洗った。

「留三郎、洗いすぎじゃねえか?」
「うるせぇ、少しだまってろ!…………」


留三郎はふとある事を思い出した。そう言え ば忍術学園入学前にはこうやってよく父親と 一緒に髪の毛や背中の洗いあいっこをしてい たと。 まだ小さかった留三郎の手では時間がかかり 、父から時間かけすぎ、洗いすぎだいわれた モノだ。 もしかしたら、文次郎は何処か父に似ている のかとさえ思えてしまう。吹き出すのを堪え ながら、最後の濯ぎをしつつ留三郎は文次郎 をちょっとからかってやるかとイタズラ心が 芽生える。

「頭は終わったからな……父ちゃん……プッ 」
「え?……なっ」

ビックリはしている。しかし、思ったより文 次郎の反応が薄かった。何だか滑った感があ り、留三郎は顔を赤らめつつヘチマを取り後 ろからゴシゴシ洗う。 ……もしかしたら、良く聞こえなかったのか も知れない。留三郎は一か八か…もう一度言 ってみた。

「父ちゃん、痒いところはない?」
「お、おとっ!?………み、右上頼む。」
「え?……ああ、右上だな。」

以外と乗ってきて留三郎は目が点になる。実 はこの時文次郎はとてつもない勘違いをして いた。
『頭は終わったからな……父ちゃん』
『え?……』

父ちゃん……両親の男の方。と言うのが一般 的な解釈である。 文次郎の感覚の父ちゃん………夫の呼び名。

ちなみに、文次郎の家も両親はお互いの事を 『父ちゃん』『母ちゃん』と呼びあっている 。……日本語とは難しいものである。 つまり、文次郎は留三郎に「旦那様」と言わ れたと勘違いしているのだ。0徹の文次郎なら ば直ぐに可笑しいと気づけただろう、しかし !

今は五徹の文次郎である………。

「……流すぞ。」
「あぁ………かか、か……か」

何か言いたそうな文次郎に、留三郎は何だと 声をかける。しかし、一行に言う気配がない のでそれ以上はスルーした。 そして、二人仲良く湯船の中へ…… 一人で悠々と入るのも良いが、こうやって普 段は喧嘩ばかりの好いた文次郎と入るのも中 々だと、留三郎は格子越しの夜空を眺めなが ら頬を赤らめていた。 一方文次郎は留三郎に『父ちゃん』と呼ばれ たことに完全に舞い上がってしまい真正面を じぃ、と見たまま動かないでいた。 何だか、会話がない気まずさに耐えきれずに 留三郎は今なら近づいても雰囲気的に問題な いかと、文次郎の側へ寄りそう。 驚いて振り向くと留三郎の生肌が目の前にあ り………眼福だ。 水面に揺れる留三郎の裸から目が話せない。

「今日は、……その、星綺麗だな……」
「……か、か」
「は?……文次郎、さっきから何なんだよ! 」

こっちは話を振って良い雰囲気を作ろうとし ていたのに、言いたいことがあるならハッキ リ言えと留三郎は文次郎を軽くコツいた。 誰のせいで動揺してるんだと文次郎は目の前 が白くなるほど怒りがこみ上げた。

そして、留三郎の両肩を掴み迫った。急に乱 暴になる文次郎に留三郎は流石に戸惑い固ま った。

「俺のこと、父ちゃんなんて言って………ま るで!夫婦じゃねえか!」
「え?………い、いや!?何て言うか…それ は!」
「好きだ……母ちゃん………」

文次郎がお母ちゃんと自分を呼んでくれてい る。まさか………

犬猿は……両想い…………

父ちゃん……母ちゃん……

熱い湯の中、文次郎に身を寄せる留三郎… 熱い湯の中、留三郎を優しく抱き締める文次 郎…… 日本、いや……世界が雷、豪雨に見舞われて も構わない。自分達はこの熱い湯の中で、ち っとも寒くはない。 それで罪に捕らわれても……

俺達は……夫婦だから……

じろ……次郎……文次郎!!

「はっ!!……こ、ここは!?」
「大丈夫かい文次郎?……お風呂で気絶して 、留三郎が運んで来たんだよ?」

……伊作と、保健室の天井を眺め、文次郎は 冷静に考えた。そう言えば、留三郎に叩かれ た時目の前が白くなるなり頭がぼんやりした 。 ハッとして起き上がろうとすると、文次郎の 顔に濡れた手拭いがヒットした。 誰だこんなもの投げやがってとその方向を見 ると、不機嫌そうにしている留三郎がこちら を睨んでいた。

「……バカ文次郎。折角の一番風呂だったの に!お前のせいで直ぐに上がらなきゃいけな かったじゃねえか!それと、俺はお前の母ち ゃんじゃねぇ!」
「はっ?…と、留三郎。それ、どういうこと だ?」

自分で考えろと留三郎は怒って出ていってし まった。文次郎は、俺が寝不足で気絶したが 為に…… 良くわからないが更に嫌われたのと、風呂場 で想いが通じあったのが夢落ちなのを落ち込 むばかりであった。

ちなみに留三郎は今廊下を真っ赤な顔をしな がらスタスタはや歩きしていた。 …折角の二人っきりのお風呂。文次郎の寝不 足で直ぐに打ちきりになって残念極まりない 。 それに、気絶した文次郎をとっさに抱き締め た際に耳元で言われたのが………

『……好きだ』
『文次郎………俺も』
『母ちゃん』
『…………………………。』

どうしてあんなギンギン鍛錬隠れマザコンバ カなんか好きになったんだろう。 留三郎はもう食堂に行く気力すらない。部屋 に戻って眠ろうと決めて更に脚を早める。 そのころ、文次郎が自分の元に来ようとして いる事など知りもせずに…

「文次郎ダメだよ!まだ寝てなきゃ!」
「煩い!俺は、俺は留三郎に想いを伝えるん だ!」

伊作の制止を降りきって文次郎はフラフラで 留三郎の元へと駆け出した。 このあと、二人はお風呂のような熱々な関係 になった、けど熱き戦いも相変わらず繰り広 げたとか……

それはまた、別のお話である。








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微妙なリクエストにこうも見事に応えて頂いて感動です!凄ェ!
とーちゃんかーちゃんのくだりには笑わずにいられない
お互いの言動に翻弄されてる感じ、たまりません

かりんさま有り難うございましたー!

2014/08/25



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