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この出会いは運命ではない――。





キムラスカ・ランバルディア王国、現国王インゴベルト五世は子煩悩で、何かにつけて我が子に話しかけたり、贈り物をするのが趣味だった。
とかく、妾腹の娘であるシュザンヌには並々ならぬ愛情を注いでいる。


「シュザンヌ、今日も可愛らしいね」

「お世辞は結構ですわ」

「僕は嘘をつく趣味はないよ」

「でしたら父上様の目は節穴ですわね」


シュザンヌは父親と兄との茶会の席でブリザードを吹かせていた。
父親の血をそのまま受け継いだ紅い髪の毛と碧のの瞳はキムラスカ王家の血統そのものだ。ただ、彼女は妾腹であるために身分は高くなかった。高くはないが、父親の愛情を一心に受けているのはシュザンヌであることは確かだった。


「うん、その冷めた感じはアリアに似てきたね」

「そうですか」


シュザンヌの母、アリアは娼婦だった。何がどうなったかは知れないが、当時、嫡子として選定を受けたばかりのインゴベルト五世はアリアと出会い、恋をした。そして逢瀬を重ねるうちにシュザンヌが生まれたのだ。インゴベルト五世は一も二もなくアリアを城に迎え入れようとした。が、貴族たちは猛反発、父王の怒りを買うこととなったが、彼にはそんなことは些末なことだった。だが、肝心のアリアが城には上がらないと言って拒否してしまい、彼の望みは叶うことがなかった。そうして、アリアの死後、せめてもの気持ちを込めて娘のシュザンヌを引き取り、溺愛した。
が、シュザンヌはキムラスカの証を持ちながら、権力や立場に執着せず、下々を虐げることもしない。だが、許さざることには断固として抗議するし、叱りつけることもあった。それが良いのか悪いのかは別にして、貴族からはあまり良い感情を持たれず、平民などからは鰻登りの人気を誇った。本人はまったく意に介さないが。


「今日はね、君の結婚相手をサクッと決めちゃおうと思ってね」

「誰ですか?」

「ファブレの次男」

「……長男ではなく?」

「もちろん、エルは長男に継がせたがってるけど、アルはもう次男に決めてるみたいだ。だから次男」


エルというのは公爵夫人のエルミーナ・フォン・ファブレのことで、アルというのは公爵のアレン・アルフ・フォン・ファブレのことだ。元から二人はあまり仲の良い夫婦ではないが、それが表面化することは決して無かった。当たり前だ、キムラスカ最高峰の貴族としての矜持(プライド)が内輪もめを他の貴族に晒すことを許さない。だが、王城に訪れる貴族たちはみな知っている。二人の関係がすでに破綻していることを。


「陛下の慧眼でもマルス・ハルヴィン・フォン・ファブレは駄目ですか」

「うん、まあね。彼の頭の良さは認めるんだけど」

「ご立派な志の割に行動力がない?」

「……弟のクリムゾンは真面目だけど柔軟だよ。それに――まあ、会えば分かるよ」

「分かりました」


シュザンヌは異議を申し立てなかった。王がそうと決めたのならシュザンヌには拒否権がないのだ。幾ら溺愛されていようとも、己は女で道具として使われることは当然の話だ。王族たる者は望んだ相手と結婚することは叶わない。


「それとね。先の話で悪いんだけど、君と彼の子供には『ルーク』って名前を付けてね」

「『聖なる焔の光』……ですか?」

「うん――間違いなくキムラスカの命運を握る子供だから、大切に育てるんだよ」


シュザンヌは暗い気持ちになった。
『ルーク(聖なる焔の光)』は預言(スコア)に出てくる鉱山の街を一つ破壊する者のことだ。ならば、未だ見ぬ我が子は街とともに死んでしまう可能性すらある。


「シュザンヌ?」

「いえ、何もーー」

「シュザンヌ、これから生まれてくる我が子を憐れむのなら、たくさん愛してあげることだよ。その分、別れが辛くなるけれどね」

「はい、父上様」


一つ目を閉じてシュザンヌはす、と背筋を伸ばした。インゴベルト五世は慈しみの、その手のひらでシュザンヌの頭を優しく撫でた。










(彼女はその運命を悲観したりはしなかった。少なくとも今は)
泥濘に咲く花










――――――――――
やっと一話目です。
五世陛下とシュザンヌさまのお話。
六世陛下はガン無視。
愛の差です、笑。
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