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寒い。ものすごく寒い。外は真っ白だ。粉雪どころじゃない。吹雪いてる。某シンガーの某何とかっていう曲以上に吹雪いてる。口の中渇くとかそんなレベじゃないです、これ。おかげでコタツを離れられず、お腹が不服を申し立てている。そう、お腹がとても空いている。だがあまりの寒さでコタツから離れられないのだ。しかも、確か冷蔵庫の中も何もなかったような……。

(駄目だ……腹減り過ぎで死ぬ……)

足をコタツに入れたままパタリとホットカーペットの上に倒れ込む。ほかほかと身体を暖めるホットカーペットとコタツはまさに天国だ。と、ワンルームの玄関口から重そうな荷物が置かれるような音がしてルーク・ファブレはぽやんとそちらを見やった。

(あれ……? 何か見たことあるシルエット)

君の毛長くて悔しいくらい長身でおまけに。


「美人」

「そらどーも。腹減ってるだろ。メシ作るから手伝え」

「……ユーリだ」

「おう。どうせこんなことだろうと思って食料持ってきたぞ。ついでに俺も泊まり込む」

「何で」

「お前の生活能力が低過ぎるからだろ。自覚ないのか?」

「ない」

「寝ぼけ過ぎ」

「うー」


ルークはユーリ・ローウェルに頭を撫でられて猫みたいに目を細めた。これで喉でも鳴らしたら完璧だ。


「ルーク、とにかく起きろ。大学が休講だからって課題放り出すな。やらなきゃ泣くのはお前だぞ」

「めんどくさい」

「あのな──まあ良いか」


ユーリはため息一つ零すとダラダラし続けるルークを放ったままキッチンに立つと食材を調理し始めた。
ユーリはいつもそうだ。厳しく叱る時は怖いけど、でも最終的にちゃんと甘やかしてくれるから、どんなにムカついても怒れない。こういうの、何て言うんだったか。ああそうだ、飴と鞭。厳しいの半分、甘いの半分。しかも甘い方は結構尋常じゃない。蜂蜜みたいに甘ったるくて、幸せで苦しくて、溺れ死にそうになる。顔が熱い。こんなこと考えるんじゃなかった。


「ルーク、本気で起きろって。メシ、食ってくれないと片付けられねえから」

「うん、食べる。メニューは?」

「冷凍庫に放り込んであった米とチキンとエビたっぷりの炒め物と大根の味噌汁も付いてるぞ。デザートは苺、練乳たっぷりかけて食え」

「苺!」

「メシ食ってからな」

「うー」


ルークは諦めて起き上がると並べてある料理に手を付け始める。箸の持ち方がおかしいだの、ぽろぽろ零すなだの、いろいろ突っ込みを受けつつ、空腹にかき込む。美味し過ぎて泣きそうだ。


「チキンとエビが何かものすごく美味いんだけど」

「ああ、予算はガイが出したから」

「よく分からんが飢え死にする前に救援物資持って行ってくれとか何とか。あの過保護っぷり、どうにか、ならないな……」

「ん、無理だと思う。昔からああだから。もう生活の一部みたいな?」

「それ、恋人を目の前にして言うか、普通」

「何で? ガイはただの幼馴染みだし」

「………………」


少し苛ついたらしくユーリの眉根が寄った。持ってきたはずの苺を取り上げられて、ルークの機嫌が一気に降下する。


「苺」

「……あーくそ、何で俺お前なんか好きなのかね」

「なんかって何だよ、なんかって!」

「気にすんな。ほれ、あーん」


ユーリはフォークで苺を突き刺すとルークの口元に持って行った。素直に口を開けて苺を堪能するルークの表情が喜びに緩むのを見ながら、ユーリは内心ため息をついた。

(こういうの見ると他事はどうでもよくなるんだよな……俺、末期過ぎるだろ)

仕方がないので、ユーリはルークに口付けることにした。ルークの口の中で柔く砕かれた苺ごと食べてやった。もちろん、ルークから痛い一撃を食らったが、そんなこと、今のユーリにとってはどうでもいいことだった。





雪の降る日は
(可愛いお前が悪い)










──────────
おのれユーリめ……!
大変お待たせして申し訳ありません、と思いつつ、ユーリめ! と叫んだのは間違いなく私です、はい。
リクエストから大分逸れた話になりましたが、暖かい感じは出せたんじゃないかと思います。
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