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ルーク・ファブレは教室へと続く廊下をとぼとぼ歩いていた。成績不振で担任に呼び出しを食らっていたのだ。……いや、不振というより優秀な兄を持ってしまったのが運の尽きというか。だから目の前に迫る書類の山に気がつかなかった。 ばさばさと盛大に宙を舞う書類たち。


「あああ……やってしまった」


少し高めの中性的な声音が聞こえてルークはやっと何が起きたのか理解した。慌てて拾うのを手伝うと、書類を抱えていたらしい短髪で黒髪の少年は花のように笑いかけて、


「ありがとう」


と言った。 パチンと音がした。何かに落ちた感覚が広がってルークは固まった。不思議そうにオレンジがかった金色の瞳に覗き込まれて後退った。


「どうしたの?」

「あ、……な、何でも、ない」

「そう?」


ルークは誤魔化すように書類拾いに集中した。


「え、っと、ごめん、ぶつかって。ぼんやりしてて……!」

「いいよ、気にしないで。僕も書類持ち過ぎちゃってたから」

「て、手伝う。どこまで持って行くんだ?」

「科学準備室だよ。荷物もそっちにあるんだ」


ルークは首を傾げた。そういえば彼はどうしてここに居るんだろう。 どんなに高く年齢を見積もっても年下に見えるにも拘わらず、まるで年上のように感じる。それに白衣。中は黒スーツで、やはり年上?


「え、と、名前、」

「僕? 僕はジュード・マティス。テイルズ大学医学部の一年」

「大学生!? う、わ、すみませんっ……!」

「そんなに気負わなくて良いと思うよ。僕、貴方より年下だから、たぶん」

「へ?」

「十五歳なんだ。去年までここの中等科にいたんだけど、スキップ制度で今年から大学に入って──」


ルークはまた固まった。スキップ制度を知らないほど馬鹿ではない。相当頭が良くないと出来ない芸当だ。確か、科学系科目担当のカーティス先生がスキップしてたとか何とか、聞いた覚えがある。彼の性格云々は別にして恐ろしく頭の切れる先生であることは疑いようがない。が、ルークは彼が苦手だった。あまり関わり合いになりたくない手合いというか何というか。


「すみません、荷物置かせてもらってて」

「構いませんよ。頼んだのはこちらの方ですから」


ルークは科学準備室の戸口に立ったまま固まった。科学準備室ならもちろん彼がいたって別におかしくないけれど。よりにもよって今なんて。


「おや、ファブレ君ですか。どうしたんです?」

「えっと、て、手伝いを」

「それは殊勝な心掛けですね」


嫌味な奴。この食えない笑みの裏で何を思ってるのか分からないが、少なくとも褒めてはいない。


「その書類、こっちに置いてくれるかな。ついでに仕分けも手伝ってくれると嬉しいんだけど……えっと、」

「あ、ルーク。ルーク・ファブレ。好きに呼んでくれて良い」

「分かった。僕のことも好きに呼んで良いよ。じゃあ、ルーク、この書類からお願いできる?」

「了解。……って、どういう分け方するんだ……?」


恐る恐る聞けば、あっさり説明してくれたから少し嬉しくなった。昔から世間知らずで我が儘で人の話を最後まで聞かなくて、並べだしたらそれこそ切りがない。どうにかしようと頑張った時期もあったけれど、結局変わらなかった。父親には呆れられたし、兄であるアッシュにも散々窘められた。悔しかったけれど、どうにもならない。諦めてしまった。おかげで友達は人並み以下で、遠巻きにされているような節すらある。実は結構気にしていたりする。ため息一つ。


「どうかした?」

「え!? あ、えと、な、何でもない……」

「そう? 気分悪いんだったら先に帰って良いからね。迷惑かけたの僕の方なんだし」

「そんなこと、ないだろ。俺が書類ぶちまける原因作ったんだし……」

「律儀だね、ルークって」


人懐っこい笑みを向けられてルークは頬を朱に染めた。仕分けに集中できなくてとても困る。ちなみにこの様子を見ていたジェイドは空気を読んで準備室から消えたとか消えてないとか。



そんなことがあってから数日後のこと。ルークは教えてもらったケータイアドレス宛てに何を打ったら良いのか困って絶賛フリーズ中。ただ謝罪と御礼を打って送信ボタンを押せばいいだけなのに、言葉が一言も出てこない。ちなみに本物の手紙にしようかと思って書こうとしたけれど、やはりフリーズして書けず、ケータイなら気軽に打てると思ったのに結局フリーズ。まるでポンコツなパソコンみたいだ。あまりの低スペックさに落ち込むレベルだ。おかげで今日はいつも以上に人が寄ってこない。仲の良いはずの友人たちですら遠慮をしているらしい。


「あー……駄目だ。頭が真っ白だ……」


あまりの駄目さ加減に半泣きになったところで、ぽんぽんと頭を撫でられた。ふ、と顔を上げると幼なじみのロイド・アーヴィングが心配げな表情でルークの顔をのぞき込んでいる。


「大丈夫か?」

「だ、だいじょうぶ!」

「どこからどう見ても大丈夫には見えないぞー?」

「う、うー……だいじょうぶ!」

「強情だな。言いたくないんだったら良いけどさ。どうにもならなくなったらちゃんと相談しろよ?」

「ん、分かった。ごめん」

「ルークが謝ったの初めて見た」

「う、うるさい!」


顔を真っ赤にして言い返せば脳天気な笑い声を返された。ロイドは入学当初クラスになかなか馴染めなかったルークに初めて声をかけてくれた大切な友人だ。彼のお陰で他にも友人ができたし、クラスの中に馴染むこともできた。つらつらとロイドのことについて思考していたら。


『空メールだったけど何かあった?』


ジュードからメールが届いた。どうやら悩んでいるうちに誤って送信ボタンを押してしまっていたらしい。慌てて短い返信を打つ。


『ごめん。何でもないから気にしないで』

『うん分かった。じゃあ僕からアドバイスを一つ。吐き出したいことがあるなら僕じゃなくてもいいから誰かに聞いてもらうこと。一人手悩んで解決するなら良いけど、そうじゃないんでしょう?』

『ただ、ありがとうとごめんなさい言いたかっただけ。嫌いにならないでくれるとものすごく嬉しい』


送ってしまってからルークは赤面した。嫌いにならないで、なんて書くんじゃなかった。そんな不必要な情報! しかも返信が止まってしまった。絶対不審がられているに違いない!


『僕は君が好きだよ。信じられないなら電話するし、会いにも行く』


しばらく経ってから返ってきたメールをしばし眺めて、どういう意味だろうと考えた。ジュードは優しいから嫌いになんかならないよって返されると思っていた。でも好きって返された。好き、好き、好き。……どういう好き? 分からないまま、ルークは返信を打つ。


『俺、ジュードの隣にいていいか? 邪魔にならない?』

『ならない。そんなこと絶対思わないよ。さっきも言ったけど、僕は君が好きなんだ。だから有り得ない』

『うん、ありがと。嬉しい』


ルークはふにゃりと笑ってケータイを閉じた。うん、嬉しい。嫌われてない、それだけで幸せだ。





俺様ラブレター
(おー花が飛んでるなー!)
(花? 飛ばした覚えないぞ、ロイド)
(無自覚かよ。とにかく解決したみたいで良かったな!)
(ん、ありがとな!)










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書き直ししてやっとこさ更新です。
俺様でもラブレターでもないのは突っ込まないでプリーズ。
とにかく学園もののジュドルク書けて幸せです、はい。
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