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ユーリ・ローウェルは遊び疲れて眠っている我が家のアイドル(語弊はない)子猫ルークを抱っこして家路を歩いている。むにゃむにゃと言葉にならない寝言を呟いているのを聞きながらユーリは柔らかく微笑む。法的な問題でなかなか外に出してやれなかったルークにやっと外の世界を見せてやることができた。それがユーリにとっては何よりの喜びだ。
──そもそもの発端は昨夜の会話である。明日の予定をチェックしていた時、ユーリ・フレン・レイヴンの三人全員が用事を抱え、なおかつ、ラピードは古傷である右目を診てもらうために検査入院したばかり。さて、ここで問題になったのがユーリの膝でうつらうつらと眠りの体勢に入ったルークだ。一人家には残して行けない。が、家から出してやるには年齢が低い。フレンいわく特別な許可証がいる、らしい。ユーリは基本的にそういうことにはノータッチであったため、面倒臭いくらいしか思わなかかった。言えば倍になって言葉が飛んでくるのが目に見えていたので何も言わなかったが。結局、家主であるレイヴンのコネを最大限利用して許可証を真夜中に発行してもらうという暴挙でもってすべてが解決した。実際のところ、レイヴンの職業を知らないために無職だと思っていたユーリとフレンは少しだけ尊敬してもいいかと思えた。酷いとか言われても、どう見ても無職にしか見えない胡散臭いおっさんをどう信じろと言うのか。
さて、話は次の日に移る。ルークは初めて外に出るとあって大はしゃぎで派手に転んでも泣かないという芸当見せてくれた。泣かないのは有り難いが、後が怖い。


「ままーはやくー!」

「分かった分かった。ルーク、ちょっと落ち着け、頼むから」


落ち着けと言われて落ち着くなら苦労しない。相変わらず怪獣のごとく暴れ回る、否、はしゃぎまくっている子猫を宥めすかして大学に行くも面倒な奴に目を付けられ、フレンと二人で応戦したものの、学長に連行されるというアクシデントが起きた。が、それも大した問題ではない。むしろ、ルークがその学長に懐いてしまったのがちょっと切ない。


「話は聞いている。念のため許可証を見せてくれ」


ユーリがカード型の許可証を差し出すと学長、デューク・バンタレイは確認して頷いた。興味津々といった体でルークはデュークをじっと見つめている。デュークの方も気づいたらしく頭を緩く撫でている。ぐるぐると喉が鳴っているところを見ると相当懐いたらしいことは分かる。


「手に余るようなら私のところで預かるが」

「一応、フレンと交代で面倒見ることにしてんですけど、どーにもならなくなったら頼みます」

「分かった。今日は外に出掛ける予定がない。いつでも連絡なり声をかけてくれて構わない」

「ありがとーございまーす」

「ユーリ、言葉遣い!」

「へーへー」


間延びした如何にもやる気のない言い方にフレンの注意が飛んだが、ユーリはやはりやる気のない返事。デュークはため息を吐いたが、ユーリとルークに退室を促した。デュークにひとしきり構って貰ったルークはご機嫌である。


「よし、ルーク。今日は一日良い子してるんだぞ?」

「うん! いいこにしてたらあそんでくれる?」

「おう、目一杯遊んでやる」

「るーく、いいこにしてる!」


実のところ、ルークの良い子にしてるが長時間続くとは思っていない。はてさて、いつまで保つやら。ユーリとフレンはアイコンタクトをして絶対に目を離さないと誓い合った──にも拘わらず呆気なく逃げられた。ユーリの時は何とか耐え抜いたが、フレンの時にノートに集中していた彼の隙をついて教室の外に出てしまったのだ。


「フレン、お前な」

「す、すまない……」


逃げられたものは仕方ない。とにかく見つけることが先決とユーリとフレンは二手に分かれてルークを探すことにした。
一方、ルークは──学内を見て回っていたデュークに保護されて学長室で遊んで貰っていた。


「でゅー、もういっかい!」

「分かった」

「にゃあ!」

「ふむ」


毛糸玉を投げて取ってくるという極単純な遊びに夢中になる子猫を眺めながらデュークは微かに笑んだ。今度は猫じゃらしをゆらゆら揺らして見せればルークの目の色が変わった。獲物を狙う者の目だ。猫の遺伝子が叫んでいるに違いない。獲物を捕らえろ、と。


「にゃあああ!」


猫じゃらしに飛びつこうとしたルークは、やはりというか、予想の範囲内というか、派手に転んだ。だが、デュークはあえて手を出さず立ち上がるのを根気強く待っていたところにユーリたちが飛び込んできて、そちらに視線をやった。


「う〜……いたい〜……」


今にも泣きそうな声を上げて立ち上がったルークに視線を戻し、デュークはただ頭を撫でてやった。ルークはきょとんとしたがすぐにふにゃりと笑う。


「あ、まま、ぱぱ!」


ユーリとフレンに気がついたルークはユーリの足にしがみついて二人を見上げた。当の二人は苦笑して顔を見合わせる。


「楽しかったか?」

「たのしかったー!」

「良かったね」

「にー!」


ユーリとフレンは丁重に謝罪とお礼を忘れなかったが、後日菓子折を持って行って断られたのはまた別の話だ。
そんなことがあって、今現在、ルークは満足そうな顔で眠っているというわけだ。今回は準備不足も相まってルークの相手をきちんとできなかったのが明らかな敗因である。次の機会があったならば目を離すまいと誓いを立てるも、やはり逃げられるというのもまた別のお話。





ともだち、できたよ










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ルークは白いひとと仲良くなった!
……大変お待たせいたしまして申し訳ありません!
も、貰っていただけるかな………?
何だか怒られそう……。
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