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ルーク・フォン・ファブレは故国ライマの情勢不安から、ギルド・アドリビトムの本拠・バンエルティア号に滞在している。弟のアッシュも一緒というのは気に入らないが、概ね生活に不便を感じない。今だって午後のティータイム中……には程遠いが、この騒がしさを嫌だとは思わない。ライマで味わっていた身分の差にジレンマを感じることなく、対等でいられる。そんな風に接してくれる彼らがてらいなく好きだ。恥ずかしくて言えないけれど。たが問題はそこではなく今目の前に鎮座する苺のショートケーキを作ったのが大罪人ユーリ・ローウェルが作ったものだということだ。

(見た目良し、仄かな甘い香りは食欲をそそられる……けど!)

よほど難しい顔をしていたらしい。ユーリが意地の悪い笑みで話しかけてきた。


「お坊ちゃんの上等なお口には合わないか? いらないなら俺が食っちまうぞ」

「食べるっつーの!」

「だったらさっさと食え。片付かねえだろ」

「わ、分かってる!」


とは言ったものの、一向に突き刺せないフォーク。何となくユーリの視線に殺意がこもった気がした。だが、深いため息が一つ聞こえて。


「……そんなに嫌なら無理して食うな」


フォークと皿を取り上げられてしまう。ぐさりとフォークで刺して一口で食べられるのを呆気にとられて見つめていたら、片付いたと呟いてさっさとキッチンに行ってしまう。ルークは呆然とユーリを見送った。

(ケーキ……食べたかったのに)

端から見て明らかにしょんぼりしたルークに隣に座っていたディセンダーのレインがケーキを差し出した。ルークはレインとケーキを見比べて戸惑ったようだった。


「食べるといい。俺はもうすでに一斤食べてるから」

「でも」

「ルーク、結構甘いもの好きだよな。俺も人のことは言えないけど」

「べ、別に普通だっ!」


言い返したものの、甘いものは嫌いではない。ガイが作ってくれるお菓子がとても素朴で美味しかったのもあるが、何より誰かと一緒に食べる時間が楽しく感じたから。例え婚約者であるナタリアがアッシュを好きだと分かっていても、過ごす時間はとても穏やかで大切だった。
ルークは胸の内に残る感傷が酷く痛んだ気がした。それにさっきのユーリの態度! 食べるって言ったのに取り上げるなんてありえない! 半ば自棄になりながらルークは譲ってもらったケーキを食べた。


「良い食べっぷり。喉詰まらせないようにな」

「うるはい!」

「はいはい、口の中が空になってから話そうな」

「むぐ」


レインがよしよしと撫でてやるとルークは頬を真っ赤に染めた。

(口の中が空じゃなくて良かった……でないとまた余計なこと言ってた)

ルークは素直に物を言うことがとても苦手だ。苦手というよりこれはもはや癖のようなものかもしれない。おかげでよく敵を作る。とてもじゃないが、政治に関われるような気性ではない。これまで人が思う以上に努力してきたつもりだが、どれほどに政治力に優れようとも最終的には人柄が物を言う。


「ご馳走様でした……」

「お粗末様でした」

「お前が作ったんじゃねえだろ」

「そうだった。つい忘れてたよ」

「忘れんな、バカ。……大罪人が、ユーリが作ったケーキだぞ!」


レインが目を見開いたのが分かった。当たり前だ。あんなあからさまに対立してるのに、こんなことを言う己はおかしく見えるだろう。言ってしまって何だが、今さら恥ずかしさがこみ上げてくる。


「初めて聞いた」

「何がだよ」

「ユーリって呼んでるの」

「き、聞かなかったことにしろ!」

「無理。でも、誰にも言わない。約束する」

「絶対、だからな!」

「ああ、分かった」


ルークはレインに固く約束させると食堂を出て行った。己のために用意されたケーキを口に出来なかったのはやはり悔しいが、ユーリを怒らせてしまったのは己なのだ。仕方ない。ルークはため息を吐いた。ちくちくする胸の痛みを、無かったことにしようと躍起になった。





まだ恋には程遠い










──────────
ユーリの出番は最初だけ。
だが、ユリルクと主張しておく。
まだお互いに始まってもいないけどね。
そういうの、好きです。
てか、間に挟まれて苦労するディセンダーを書きたい。
きっとそれも立派なユリルクになるに違いない。
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