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作品保管庫 | ナノ
ユーリ・ローウェルは昨日、赤毛の子供、ルークを拾った。というか無理矢理拾ってきたという方が正しいのか。死にたいから殺してくれというその子供に生きろと言ってやったら非道いと言って泣くものだから、柄になく説教してしまった。これまでいろいろな拾い物をしてきたが人間は初めてだ。おかげで酒場の女将が珍しく眉をつり上げて怒っている。そりゃあもう射殺されそうな勢いで。
「ユーリ、あんたね。人間は犬猫とは違うんだよ。さっさと親御さん探して返してやるべきだと、あたしは思うがね」
「やだ。俺、帰らない。帰ってもヤなことばっかりだもん」
「坊や、悪いことは言わないよ。ちゃんと帰りな。父さんと母さん、坊やのこと心配してるよ」
「ないよ、絶対ない。あの人たちは俺のことなんて心配してない。心配なのはお金だけだ!」
吐き捨てるように言った子供は女将を睨み付けた。何も知らないくせに好き勝手なこと言うな、と言っているのがありありと分かる。
「つったって親なんだろ」
「保護者ぶってるだけだ。実の親じゃねえし、金になるから家に置いてるだけ。……殴られたり蹴られたりすんのがもう嫌だったから、家抜け出した。たぶん、探されてるとは思うけど帰りたくねー」
「金になる?」
「何か知らねえけど、俺どっかの金持ちの子供らしいからさ。俺の養育費とか貰ってるっていつだったか言ってた。俺のために使われたこと、一度もねえけどな」
「ああ、そういうことか。ま、よくある話だな」
「ったく、庶子作んのは良いけど、責任持てんなら最初っから作んなよなー。かなり迷惑」
ユーリは苦笑した。確かに迷惑な話だ。育てられないから放り出して、後腐れないように金を出す。後は好きにしろなんて、貴族様の考えることはよく分からない。
「にしても、赤毛に碧眼なんてどっかで見た気がするねえ……どこで見たんだったかね」
ユーリはすぐに思い当たった。そうだ、ファブレだ。確かそんな家名だった。キムラスカ・ランバルディア王国の筆頭貴族で今年十七になった息子が一人いたはずだ。ふ、と思い付きでユーリはルークに問うた。
「お前、幾つだ?」
「ん? 十七だ。それがどうかしたか?」
「……十七?」
「な、何だよっ!」
「悪い、十四、五かと思ってた」
「お、おま、お前!」
「童顔だからそう見えるんだな。若く見えるのは良いことだぞ?」
からかうように言ってやれば顔を真っ赤にして怒り出す。きゃんきゃん吠える子犬よろしく、あれやこれやと言っているが。うん、何だか。
(可愛い……?)
ユーリは深いため息を吐いてこめかみを押さえた。いや、ありえない。ありえないから。
「ユーリ、聞いてるのか!?」
「いや全然まったく聞いない」
「むーかーつーくー!」
「あーはいはい」
これで本当に十七か。さっきは十四、五と言ったが、十歳くらいでも通るんじゃないかと思うくらい幼く見える。
(結構悟ったところとかあるくせに子供っぽい。そのギャップもなかなか)
そんなことをもやもや考えていたら今度は本当の犬の鳴き声が聞こえて足元を見れば、青と白のコントラストの子犬がユーリに向かって吠えている。どうやらルークに加勢しているつもりらしい。
「ユーリ、こいつ飼ってんのか?」
「いや預かってんの。一時的な」
「そっか。名前は?」
「ラピード。まだ遊びたい盛りのお子様だよ」
「む。ラピードは将来立派な番犬になるぞ!」
「将来な。今は子供だろ」
ラピードのことを子供だと言ったのになぜかルークが怒り出した。ラピードも負けじと吠えたてる。そろそろ店の迷惑になるか。ユーリはルークの頭をぽんぽんと撫でて、女将に代金を支払うと、ルークの手を引いて店の外に出た。ラピードも後を付いて走り出す。女将が何やら言っているのが、ユーリは全部聞かなかったことにした。
「なあユーリ、やっぱ俺を家に返すのか?」
「いや。俺の部屋で一緒に暮らすことにした。異存は? あるなら今うちにどーぞ」
「ないよ。あってもどうせ却下するんだろ」
「おう、当たり前だ。俺は一度決めたことは何があっても覆さないのが信条だ」
「……うん、今日からよろしく?」
「何で疑問系なんだよ。……ま、良いか」
ユーリは微かに笑って明日からの生活を想像した。うん、きっと楽しいに違いない。
酒場で作戦会議
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突貫工事できた。
ぐわっとユリルク覚醒したから書きました。
ブログであげてた殺し屋ユーリとルークの出会い直後、酒場でお食事みたいな。
場所がどこだとかはご想像にお任せします。