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ルーク・ファブレがレイヴンと暮らすようになってから半年が経過していた。実家のごたごたは収束したものの、家に帰る気が起きず、ずるずると今も同居を続けていることに多少の罪悪感はある。が、帰ることができない最大の理由はルークの膝を今まさに占領する、この部屋の主レイヴンにあった。恋人としてお付き合いを始めてからというもの、おかしくなるくらいレイヴンのことが気になって仕方ない。これじゃあ、まるで片思いだ。いや、そもそも両思いって何なんだ。お互いに好きだって分かったから両思い? 分からなくなってきた。


「ルー君の百面相、面白いわあ。ていうか可愛い。ね、食べて良い?」

「断る! 可愛いとか言うな! 俺は男だ!」

「可愛い子を可愛いって言うのはイケナイことかしら?」

「だ、だってレイヴンに言われると恥ずかしいじゃないか!」

「どうして恥ずかしいのかな?」

「どうしてって……どうしてもなの! これ以上言うならもう膝枕してやんねーぞ!」


そう言ってやるとレイヴンは可笑しそうに笑うと宥めるように口付けた。ちゅっとリップ音を立てて離される彼の唇。


「目、閉じて?」

「や、やだ」

「どうして?」

「どうしてもっ……んっ!」


今度は唇をこじ開けられて舌を絡め取られる。目を閉じまいと頑張るがとうとう堪えきれなくなって閉じてしまうと微かに笑った気配がする。何となく見られているような感覚に陥って恥ずかしくなる。実際、レイヴンは己を観察しているに違いない。悔しい。悔しい、悔しい! こっちが恥ずかしがってるの知ってるくせに!


「可愛い。ねえルー君、このまま……あだっ!」

「調子に乗んなーー!!」

「ひどっ! ルー君ヒドイわ!」

「うるさっ……うるさい! レイヴンのバカーー!!」


涙目になりながらルークはレイヴンに怒鳴り散らした。だが、そんなこと物ともしないレイヴンはルークの唇を再び塞いだ。膝枕していたはずなのにいつの間にか押し倒されてしまっている。もうキスだけでイってしまいそうな勢いだ。ああもう、どうにでもなってしまえ……って違う! どうにかしないと本気でよろしくない展開!


「おーおー今日もやってんのか。おっさん最低だな」

「ゆ、ゆーり……!」

「そんな目で見るなよ、襲いたくなるだろ?」

「ばっ……ばかーー!!」


最近はユーリも助けてくれないからかなり困る。助けてくれないのは己が本気で嫌がっていないということなんだと分かっていても、たまに泣きたくなる。本当に何でこんなおっさんでなければならないのか。己のことながら不思議でならない。


「ぶーぶー! ユーリ君てば今日は来ないんじゃなかったの?」

「別に俺が来たいって言ったわけじゃねえよ。……て、あー固まっちまってる。おっさんのせいだぞ」

「あれま、ガイ君じゃないの。どしたのよ」

「ルークの様子が見たいって言ったんだよ。俺はやめとけって言ったんだけどな」


ユーリの隣で固まって真っ白になっているのはガイ・セシル。ルークの通う学園の一年先輩だ。世話好きでよく構われているのだ。金髪碧眼の整った顔立ちで女子によくモテる。が、本人は女性恐怖症で近付かれるだけで飛び上がって逃げる。ただし、嫌いだから逃げるのではなく触られるのが苦手だから逃げるらしい。

『女性は大好きだ!』

と豪語するくらいだから本当なのかもしれないが、まったく信憑性がない。あの逃げっぷりは嫌いだとしか思えないのだが。


「ガイ、ガーイー? そろそろ目ぇ覚ませって」

「……はっ! すまない、幻覚を見ていた」

「現実逃避しても無駄だ。二人はもう出来上がってる」

「俺のルークがああぁぁぁ!」

「ご愁傷様」


ユーリとガイのやり取りを聞きながらルークはレイヴンをやっと押し退けてソファに座り直した。レイヴンもルークに倣って座り直したが、かなり不機嫌なご様子だ。


「ガイ君、それ聞き捨てならないんだけど! ルー君はおっさんのなの!」

「良い歳して子供襲うなんてずいぶん常識ないんですね」

「あははーうるさいよクソガキ君!」


ブリザードが吹いている。それはもう素晴らしいくらいに。どうしたらいいのか分からずに百面相をしていたらユーリが隣に座る。


「で、どうすんの、お前。このまま家に帰らねえってのは拙いだろ」

「う、うん。そうなんだけど」

「一度家に帰りたいって言えばおっさんだって引き留めねえと思うが」

「あ、あーうん、実は一回そのことは話したんだけど、上手くはぐらかされちゃって」

「……ほほーう、おっさんが原因か。よし、ガイに加勢してくる」


そう言ってユーリはレイヴンとガイのいる方へ行ってしまう。ぽつんと取り残されたルークはぼんやりと言い合いをする三人を眺めた。仲が良いなあ、などと暢気なことを考えていたが、途中から完全に形勢がガイとユーリの方に傾いているのが分かってルークはため息を一つ吐いた。本当にどうして己のたった一人があんなおっさんなのか。


「ガイ、ユーリ、その辺にしといてやれよ。一応年長者なんだし、ある程度は敬ってやらないと」

「ルー君、何気にヒドイ……」


ガイもユーリも納得いかないという顔だったが、二人には丁重にお帰り願った。きっと二人がいると、本気でレイヴンが情けないことになりそうだったから。レイヴンが情けないことになってもルークは一向に構わないが、後が大変なのだ。面倒事は極力避けたい。いや、もうすでにある意味面倒事になっているのだが。


「大撃沈だな」

「うん、ルー君慰めて」

「あ、頭撫でる、くらいなら」

「よろしく〜」


そう言ってレイヴンは再びルークの膝に頭を載せた。柔らかく撫でてやると至極満足そうな表情で身を委ねた。


「ルーク」

「え、あ、何?」

「お家に帰りたい?」

「帰りたいよ。帰ってちゃんと父さんと母さんを説得したい」

「説得?」

「ん……その、レイヴンと、ちゃんと暮らせるように、さ」

「ほんと、に? 嘘じゃない? おっさんのこと、嫌いになったんじゃなく?」

「そりゃ、何であんたみたいなおっさんじゃなきゃ駄目なのか未だに疑問はあるけど……でも俺、あんたが好きなんだ。訳分かんなくなるくらい好きなんだよ。だからっ!」


あんたと一緒に暮らしたい──そう言う前に唇を塞がれた。すぐに離れたけれど、また口付けられる。駄目だ、今日も帰れそうにない。





君とふたりぼっち










──────────
終わり。
今回は短くまとめてみました。
でも、ほのぼのってリクエストだったのに、ひたすらおっさんがルークを食べようとしてる話になった。
あ、ガイはツインブレイヴのガイルク参戦記念に出してみました。
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