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星喰みの一件が終わって下町で暮らすようになったルーク・フォン・ファブレの朝はだいぶん早くなった。宿屋兼酒場の女将さんのご厚意でルークが寝泊まりしている部屋の主ユーリ・ローウェルと同居を始めたのだ。
意識が浮上してルークはすんと鼻を鳴らした。香ばしいその匂いがユーリの作っている朝食のものだと確信してうっすら目を開けた。


「わん!」


元気よく吠えて頬を舐めた子犬にルークは苦笑した。青と白のコントラストに厳つい面構えは父親そっくりだ。


「おはよ、ランバート」


ラピードの父親の名前を受け継いだこの子供は生まれてからまだ一年と経っていない。わしゃわしゃと頭を撫でてやると千切れんばかりに尻尾を振ってじゃれついてくる。ベッドの下で休んでいた母親のリリーが窘めるように我が子の首根っこを噛んだ。リリーはもともと騎士団の軍用犬候補生だったが、脚に問題があり里子に出されるはずだった。そこでフレンがユーリに相談して、あれよあれよとお見合いが決定した。いろいろ悶着はあったが、今はラピードもリリーも仲良くしている。ランバートとという可愛い子供にも恵まれて、今や円満家庭。ちょっと羨ましい。


「リリー、ランバート頼むな」


そう言ってルークは緩慢な動きで着替え、顔を洗おうとシャワールームに向かったところで、声をかけられた。


「ルーク、もうすぐ朝食できるぞ」

「ん、……ぅ」


口付けられてルークは素直に目を閉じた。もう何ヶ月と続いている朝の挨拶。たまにキスだけで終わらないのが玉に瑕(きず)だ。


「おはよう、ルーク」

「おは、よ、ゆぅり、ん……も、だめ、だって」


まだキスを続けようとするユーリにルークは弱々しく抵抗した。しばらくすると満足したらしいユーリは満面の笑みでルークをダイニングテーブルの椅子に座らせた。


「さ、食べるか」

「ぅー……ユーリのばぁか……!」

「あーはいはい。で、ジャムはどれにする?」

「マーマレード」


ぶすくれるルークを苦笑しながら見やるとユーリはトーストにジャムを丁寧に塗ると、ルークに差し出す。たっぷり載ったマーマレードジャムにルークはふにゃりと笑うと嬉々として食べ始めた。可愛いなあなどと思いながらユーリは自分の分のトーストにストロベリージャムを塗る。おそらく一般的に考えて有り得ない量を。


「なあユーリ。それ、多くないか?」

「普通だろ」

「そうかなあ」

「そうなんだよ。ほれ、食っちまえよ。でないとまたその口塞ぐけど、いいのか?」


それは困る。ルークは慌ててトーストを頬張った。ユーリは不敵に笑ってルークの口端に付いたジャムを指で拭うとペロリと舐めた。それがあまりにも色っぽ過ぎて、赤面してしまう。


「何かずるい」

「お前が可愛いのが悪い」


その様子を見ていたリリーといつの間にか帰ってきていたラピードは少し呆れ気味だ。ランバートはラピードの尻尾で絶賛じゃれつき中で気にも止めていない。



何気ない、日常の一コマ。





トーストにはたっぷりのジャムを



大切な人とまた何気ないことで笑ったり怒ったりできるように。
大切な家族との穏やかな日々を取り戻せるように。
今はただ祈り続けます。









――――――――――
弥乃さまへ捧げます。
テキストを書かせてくれと傍迷惑にも頼み込んで書きました。
ほっとできるような内容でとのことでしたので、ユーリとルークの何気ない日常をただ切り取って書いてみました。
山もなければ落ちもありません。
けれど、幸せと感じられる日々が戻ってきますようにと願いを込めました。
タイトルはレジェンディアのミミーのテーマから。
可愛らしく、そしてどこか微笑ましく感じるような、そんなイメージです。
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