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「というわけで、おっさんルーク頼んだぞ」

「ちょ、ルーちゃん泣いたらおっさんどうしたらいいの!?」

「ラピードもいるし問題ないだろ」


問題大アリだ。一度火がつくとなかなか泣き止まないのを知っていて、そういうことを言うなとレイヴンは心の中で叫んだ。ラピードも同じ気持ちのようではあったが口にすることはない。なぜならこの家を実質的に取り仕切っているのがユーリだと知っているからだ。大黒柱たるレイヴンの生活能力は最低ランク。フレンは身の回りの掃除や洗濯はできるが、料理の才能がない。いや、レシピ通りに作れば絶品だが、創作は完全にダメだ。見た目がどんなに美しかろうと、美味しそうな匂いがしていようとも不味いのだ。一種のブラックホールだ、あれは。だからオールマイティーなユーリが家事の一切を取り仕切っているのだ。ルークがユーリを『まま』だと思うのも仕方のない話かもしれない。


「とにかく、俺は夕方まで講義があるから帰ってこられない。昼は作り置きしてくから、レンジで温めて食べさせてくれ。温め過ぎるなよ。猫舌だからな。間食用のおやつも用意してくから。まあ、こっちは臨機応変に」

「本気で泣かれたら、」

「死ぬ気で宥めるか、疲れるまで待て」

「……りょーかい、お母さん」

「はっはっは、頼んだぜ祖父さん?」


意地の悪い笑みが恨めしい。玄関までユーリとフレンを見送ってレイヴンは観念したようにルークが眠っている部屋に足を踏み入れた。ルークはまだすよすよとあどけない寝顔のまま。内心安堵するものの不安は消えない。昨日、一日ユーリが不在になるということを言い聞かせたらしいが、どこまで覚えているかまったくもって予想がつかない。


「じぃじ……?」

「おはよう、ルーちゃん。今朝はお寝坊さんね」

「おはよー」


存外寝起きの良いルークは伸びをしてから身体を起こした。


「ままは?」

「お出掛け。昨日聞いたわよね?」

「おみおくり、できなかった……」

「だーいじょうぶよ、帰ってきたママにお帰りなさいって言えば、きっと喜ぶわ」

「ほんと?」

「ホントホント」


レイヴンが笑って言えばルークは目を輝かせて満面の笑みを浮かべた。

(ま、眩しい……ルーちゃん、眩しいわ!)

汚れた大人であるという自覚があるだけに余計眩しい。純真無垢で真っ白な子供。向けられる好意にまっすぐ応えて疑わない。可愛いが、たまに自己嫌悪に陥る。遅れてやってきたラピードは端から見るとレイヴンが激しく不審者に見えてしまう事実を言おうか言うまいか迷ったが一つ頷いて呟いた。


「レイヴンはロリコンか?」


レイヴンは派手に固まり、ルークは『ろりこんってなぁに?』と聞く始末。意味を言おうとして、だがレイヴンの名誉のためにラピードは踏みとどまった。


「ラピード君、どこでそんな言葉覚えてきたの」

「ユーリがそんなことを言ってた」

「ユーリ君ヒドイ……!」


ぐったりとうなだれるレイヴンにルークは心配そうな顔をして頭を撫でた。レイヴンはくすぐったいやら情けないやらよく分からない気持ちになる。そんなレイヴンを哀れに思ったのかラピードはルークを抱き上げた。


「とりあえずご飯」

「ごはん!」

「はいはい、そうしましょう!」


半ばやけくそで言うとレイヴンは階下に降りていった。ルークは目を丸くしてぱちぱちまばたいた。



朝食を終え、その後、(ラピードにとっては)穏やかに時間が過ぎていた。きゃらきゃらと笑ってレイヴンにじゃれつくルークを眺めながらラピードはひなたぼっこに明け暮れ、じゃれつかれるレイヴンは必死にルークの相手をし、ルークは手加減なく遊んでくれとレイヴンにせがむ。ここにフレンがいれば間違いなくフレンに行っただろうが、生憎と今日はユーリとともに不在。基本的にラピードは全力では遊んでやらない傾向。選択肢はレイヴンしかいない。


「る、ルーちゃん元気ね……」

「じぃじ、投げて投げて!」

「分かった、わ……」


毛糸玉を投げて撃沈したレイヴンは疲労困憊だ。さすがにと思ったラピードはルークに待ったをかけた。


「ルーク」

「なあに?」

「じぃじは疲れてる。少しお休みさせてやれ」

「まだあそびたい」

「ルーク、少しでいい。それまで我慢だ」

「ぅー……」


そんなやりとりをしているのを横に聞きながらレイヴンは昼食を温めないとか思っていた。それにレイヴンも空腹になりつつある。腹が減っては戦は出来ぬとも言う。のっそりと起き上がるとレイヴンはキッチンにのろのろと歩き出す。


「じぃじとあそぶの!」

「ルーちゃん、お昼ご飯いらないの?」


意地の悪い質問だ。その瞬間、ルークの腹の虫が鳴る。


「たべる……」


カーペットに座り込むとお腹を押さえる。レイヴンは苦笑してルークの頭を優しく撫でた。
昼食も(ラピードにとっては)概ね穏やかに過ぎ、午後はさすがのルークも眠いらしくうとうとして、レイヴンの膝の上で午睡していた。戯れにレイヴンが耳の付け根を撫でてやればぐるぐると喉を鳴らす。うにゃうにゃと寝言をもらす子猫はとても可愛らしい。


「おっさんの小さい頃はこんな可愛くなかったわねえ……」

「何だ急に」

「ラピード君は可愛かったわね」

「そう言うのはお前たちくらいだ」


レイヴンは苦笑した。ラピードは右目の怪我のせいで大分損をしていたのは事実だ。だが、レイヴン、ユーリ、フレンにとってはずっと変わらず大切な家族であることに変わりない。


「いーのよ、そのまんまで。ルーちゃんも真っ直ぐ育ってくれれば言うことないし」


ずいぶんと爺な発言だなと思ったが、ラピードはありがたく受け取っておいた。





じぃじといっしょ
(レイヴンは?)
(疲れきって撃沈してる)
(まあ、おっさんだから仕方ないか)










――――――――――
起きたルークに遊んでとせがまれて全力で遊んであげたみたいです。
哀れレイヴン、笑。
ルークの日なので何ぞか書いてみた。
全然関係ない内容だけれども更新したっていうだけで俺は満足だ。
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