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城門に絡んでいた茨はフレンが触れるのと同時に朽ちて地面に落ちていく。まるで待っていたと言わんばかりに。嫌な音を立てて開く門を見つめながらルークは心が暗く沈むのを自覚していた。この茨は真実『王子様』であるフレンを待っていたのだ。彼の来訪だけを。だから他の者では意味がない。
ルークたちの住む荒ら屋を訪れた人間はいない。城の『中』に入った人間もいない。代わりに城の『外』で死んだ人間は数限りなくいる。おそらく噂を聞きつけた人間がこの城に入ろうとして茨に殺されたのだ。いや、この城に眠る宝物狙いの盗賊か。どちらにせよ、彼らは入る間もなく死を得た。
玄関の大扉を開けるとまるで入るなとでも言うように鎮座するドラゴン。ルークは顔をしかめた。だが、すぐに表情を改めるとドラゴンの前まで歩いていった。ルークに対しては攻撃の意志がないらしく、威嚇しかしてこない。


「ラピード」


そう声をかけた瞬間、フレンの隣にお座りしていたラピードは猛然と走り出し、ドラゴンに噛みついた。それが合図のようにフレンも剣を抜き斬りかかる。ドラゴンが初めて動いた。恨み辛みを凝縮したような暗く黒いオーラが爆発する。


「あんたもしつこいな。そろそろ消えろ」


苦戦するフレンとラピードをよそにルークは光属性の魔法を発動させた。光の雨がドラゴンの肉体を焼く。最期の断末魔を冷えた気持ちのまま見つめていた。


「すごいな、ルーク」

「ローレライならもっとひどいやり方をした。これでも手加減してる」

「どうして……?」

「……エステルのとこまで行けば分かるよ」


ルークの表情は相変わらず冴えない。フレンは不思議に思いながらも地下にある小部屋に向かって歩みを進めた。部屋の扉の前で立ち止まる。


「こんなところにも茨が……」

「執念深いな。……いや、違う。これは。そう、そうだったのか」


ルークの気持ちはさらに沈んだ。こんな悲しい、こんな寂しい、複雑な糸が絡み合い、彼女は眠ってしまったのか。ルークはフレンに目配せをした。頷いたフレンは扉に這う茨にそっと触れる。途端に茨は霧散した。まるで最初からなかったように。開いた扉の向こうに天幕付きのベッドがあり、時を止めた少女エステリーゼが横たわっている。フレンは吸い寄せられるように彼女のそばに跪いた。それを見届けるとルークは呟くように言った。


「じゃあ種明かししようか。質問は?」

「あのドラゴンのことを教えてほしい」

「端的に言うなら嫉妬や執着の塊かな――最初から呼ばれなかった魔法使いなんかいなかったってことだよ、フレン」


フレンは首を傾げたが、ルークに先を促した。


「魔法使いは最初から十二人。死の呪いをかけたのは十三番目の魔法使いではなく王妃だ。生まれた娘は王に溺愛され、己は放っておかれる。そんな状況が嫌だったんだろうな」


フレンは目を見開いた。ルークの師であるローレライも十二人のうちの一人だった。が、断ったために別の魔法使いがあてがわれた。それだけのことだ。


「王妃様が……そんな、」


痛ましそうにエステルを見つめ、彼女の手を優しく包んだ。


「他に質問は?」

「この部屋の扉を封じていた茨はいったい誰が?」

「王の嫉妬だ。エステルはお前と仲が良かっただろう?」

「そんなっ……僕は、彼女を!」

「「守りたかっただけだ」」

「――お前の心情などこの際関係ないんだよ」


今度こそフレンは言葉を失った。この小部屋はエステルとリタとフレン、そしてルークの秘密基地。エステルの従者として唯一この部屋に入ることを許された、たった一人の男の子。王は恐れた、目に入れても痛くない可愛い娘が奪われることを。


「今度は俺から質問だ、フレン」


オマエハココニクルマデドコニイタンダ――?

エステルの手を包んだままフレンは固まった。どこにいたのか、なんて質問はするだけ無駄だと知っている。当然だ。彼には記憶がない。意図的に消されているから。
フレンは暗い場所にいた。共に残り、彼女の目覚めを待つと言った彼を王は無理矢理連れ出し、暗くて時間すら分からぬ場所に閉じ込めた。それを察知したローレライがフレンを眠らせた。その時が来たら目覚めるように魔法をかけて。


「つまらないことを聞いたな。さあ彼女を目覚めさせるといい」


フレンは頭が痛むのかこめかみを押さえていたが、一つ首を振って、彼女の唇に己の唇を重ねた。ゆるりと瞳を開けたエステルは幸せそうに彼の名を呼んだ。つかの間、許された時間の中で二人は寄り添った。だが、それは突然失われる。二人は急激に時間を取り戻し、骨となり、灰となる。


「ゆっくりお休み。フレン、エステル」


一つの物語は終幕した。ルークは二人の灰を集め小さな小箱に入れると、崩れゆく城をラピードとともに抜け出し、ローレライの屋敷に戻ってきた。


「帰ったのか。飯できてるぞ」

「うん」

「飯食って二人で送ってやればフレンもエステルも喜ぶだろ」

「うん」


別件で外に出ていたもう一人の同居人ユーリ・ローウェルが帰ってきていた。ユーリの言葉にルークはただ頷く。ユーリは苦笑して腕を広げる。


「ほれ」


ルークは迷いなく彼の腕の中に飛び込んで、声を上げて泣いた。ユーリはただ優しく抱きしめて頭を撫でてくれていた。





(御伽噺にハッピーエンドなんてない。いつだって誰かが泣いたり苦しんだりしてる。でも終わらない物語はこの世にはないんだ)
/FAIRY TALE -茨姫-










――――――――――
茨姫をパロってみたが薄暗い。
後味悪いなー。
でも確か灰になったんだよね、茨姫。
ちなみにルークも何かの話のヒロインっていう裏設定があります。
それも書けたらいいなあ……書けるかなあ。
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