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子猫が一匹、何の因果か、我が家にやってきた。というか、飼い犬のラピードが拾ってきた。赤毛で翡翠色の瞳の、目が覚めていの一番に己を見て子猫は、


「まま?」


とのたまった。頭を抱える己を見てラピードは、


「見えなくもない」


とのたまった。
こうして己と友人とラピードと子猫の奇妙な同居生活が始まったのである。





人型ペットが普及し始めて数十年、今やその種類は多種多様を極め、犬や猫はまだ何とか許容範囲内だが、いわゆるエキゾチックアニマルと呼ばれる動物の人型ペットが出回りだしたのにはさすがに驚いた。
ちなみに己、ユーリ・ローウェルは犬タイプの人型ペットのラピードを友人と共同で飼っている。青毛で、ある事故で右目の視力を失ってしまってはいるが、滅法喧嘩に強い。外に出ると傷を怖がられることもあるのでいつも眼帯を付けている。……まあ、飼っているというのにはかなり語弊があるが。本人は飼われているというより同居しているという感覚の方が強いようだ。


「ユーリ、ルークが泣いてる」


ルーク、というのが過日ラピードが拾ってきた子猫だ。どうやら『ルーク』と呼ばれていた記憶だけはあったようで、名前だけは分かったが、それ以外のことはさっぱりだった。しかも年齢がかなり低く、まだ教育機関にいるはずなのだが、ルークはなぜかユーリたちの住む一軒家の軒下で震えていたという。


「またか」

「まただ。あの泣きはユーリじゃないとあやせない。だから呼びにきた」

「分かった」


そう言って部屋を出ると下の階から大音声の泣き声が響いていた。これは苦労するなと思いつつ、階段を降り、ルークのいる居間に行くと小さな身体がユーリに飛びついた。


「ままっ……!」


ママと呼ばれ続けてユーリももはや慣れたもので、そのことに言及しなくなっていた。ちなみに『ぱぱ』は同居人のフレン・シーフォでラピードは『にぃに』と呼ばれている。閑話休題。
飛びついてきたルークの身体を抱き留めてユーリはカーペットに膝をつき、ルークと視線を合わせた。


「どうかしたのか?」

「まま、まま!」

「落ち着けって。俺はここにいるから」

「ままぁ……」


ぐずぐずと泣くばかりで、どうして泣いているのかまったく分からないまま、ルークは泣き疲れてユーリの腕の中ですやすやと眠ってしまった。


「やっと寝た……記録更新じゃないか、これ」

「そうかもしれない」

「くそぅ……このままだと確実に課題が終わらねえ……どーするよ」

「母親なら仕方ない」

「人事みたいに言うな、ラピード。そもそも拾ってきたのはお前だろうが」

「育てると決めたのはユーリとフレンだ」

「………………」


その通りだ。言い返せないのが悔しい。だが、そこはそれ、まだ大学に通う身としてはルークのことばかりにかまけてはいられない。かと言って放っておけるほど非情にはなれない。ルークはまだまだ小さい。手をかけてやらなければ、それこそ死んでしまうかもしれない。この年頃の人ペットは親となる人間が必要なのだ。だから教育機関に入るのと同時に人ペット一人に対して父親と母親の役割を持つエディケイター(教育者)が二人つくことになっている。本来なら男女で分担するものなのだが、残念ながら我が家は男三人。いや、二人と一匹。ユーリはため息を一つ吐いた。


「そういやフレンはどうしたんだ? 今日は講義ないんだろ」

「ジュディスのところに行ってる。ルークを受け入れるはずだった教育機関がどこだったのか、調べてもらってるって言ってた」

「ああ、そっか。それは盲点だった」

「盲点じゃないってフレンは言ってたけど」

「揚げ足取るなよ」


軽く睨んでやればラピードは肩をすくめた。が、確かに考えてみれば、教育機関にいるはずのこの時期に野良のように外で暮らしていたのか、気になるところではあった。この年代の人ペットの子供の親はどんな理由があろうと国に届け出を出して、数ある教育機関のどこかに振り分けられるのを待つ。そのように法で義務づけられている。


「出迎えなしだなんてユーリ君ひどいじゃないの!」


居間の入り口に野暮ったくスーツを着込んだ如何にも胡散臭い男がいた。ユーリは別段驚くこともなく。


「何だおっさんか」

「おっさんか、じゃないでしょ!」

「五月蝿い。ルークが起きるから静かにしろよ」

おっさんことレイヴンはユーリとフレンの後見人だ。いわゆる保護者。両親のいない二人にとっては父親のような存在かと思いきや。本当のところはユーリとフレンにしか分からない。閑話休題。
レイヴンはユーリが抱いているルークに気がついて目を丸くした。


「どこから誘拐してきたの!」

「してねえよ! だから静かにしろって」


ユーリに睨まれ、レイヴンは仕方なく声のトーンを落としたが、赤毛の、しかも明らかに四歳か五歳(人間換算年齢で)くらいの子猫だ。


「……ユーリが母親ならレイヴンは祖父さんか」

「お、それいいな。俺らがいない時は子守頼んだぜ、祖父さん?」

「俺様、そんな年齢じゃないってば!」

「だから静かにしろって」


ユーリは何事か喚くレイヴンを放ってルークを抱いたままリビングを出て行った。残されたレイヴンは完全無視されたことにしょげかえり、座り込んで絨毯に指で円をかく。


「むさ苦しいからやめた方がいい」


ラピードのこの言葉で今度こそレイヴンは撃沈した。










(せめて父親になりたかったわよう!)
(父親はフレンだから無理だ)
(ひーどーいー!)
(諦める方が建設的だ)
こねこ、いえにやってくる










――――――――――
にゃんこの日万歳!
おめでとうございます!
何て俺得な日!
そして、小さい夢を自ら叶えてみた。

ルーク→子猫
ユーリ→ママ
フレン→パパ
ラピード(半分擬人化)→にぃに
レイヴン→じぃじ

素晴らしき擬似家族の出来上がり。
ジュディスとかリタとかエステルとかカロルとかパティとか、ホントはいろいろ出演させたかったけど無理だったorz
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