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作品保管庫 | ナノ
年越しだと言うのに野宿に決まったのは数時間前のことだ。夕食もとっくに終え、今は深夜十二時を過ぎ。新年の挨拶をして、ユーリ・ローウェルとルーク・フォン・ファブレはぼんやりと空に広がる星々を見つめていた。
結局年越しはいろいろ立て込み過ぎて帝都に帰れなかった。こんな時だからみんな文句を言わなかったけれど、ユーリとしてはルークのために一度戻ってやりたい気持ちが実はあった。
「ルーク、眠いなら寝ろよ。もともと俺が寝ずの番なんだから」
「うーだってせっかく年越ししたのに……」
「お前なあ……俺の膝貸してやるから少し眠っとけって」
「やだ」
「ルーク」
「やだ!」
ユーリは盛大なため息をついてルークを引き寄せると自分のかぶっている毛布を半分かけてやった。寝たくないなら眠くなるように仕向けてやればいい。頭を優しく撫でて、彼の意識をとろとろに溶かして。
「ユーリは卑怯だ……俺まだ寝たくない」
ユーリを見上げながらルークは目に涙を溜めた。今にもこぼれそうな雫を見てユーリは少しだけ動揺したが、それで言うことを聞いてやるわけにもいかない。
「駄々こねるな。お前はガキか!」
「ガキでいい!」
「ルーク、良いから寝ろ。でないと起こしてやらねえぞ」
「……それはやだ」
とうとう泣き出したルークを抱きしめて、宥めすかしてやるとルークはようやくおとなしく眠ってくれた。ユーリは微かに笑ってルークの額に口づけた。
お互いにきちんと告白したわけではないけれど、でも、お互いに求め合っていて、何より大切で。けれど、ユーリは未だにそれを上手く言葉にできないでいた。そんなユーリの気持ちを知ってか知らずか、ルークは最近よくユーリに甘える。少し前まではこんな風に呼吸が分かるくらい傍にいなかった。どこかしら遠慮していて、甘えることすら罪のように思っていたようで、そのことで何度か苛立ちを覚えたこともある。
どうして一人でいたがるんだ。もう一人じゃないと何度も言ったのに。どうして甘えない。それが彼の言うところの『罰』だからか?
そんなのは単なる独りよがりで勝手な論理だ。ルークの気持ちをきちんと理解しないで、己の気持ちばかり押し付けて、何て傲慢なんだろうか。傲慢だと分かっていながら、それでもたまに苛立つ。その孤独に触れたいと願う己が馬鹿みたいに思えることすらある。
ユーリは目をまばたかせた。むにゃむにゃとわけの分からない寝言を呟くルークをひとしきり眺めて堪能して、また抱きしめる。
「お前、無防備過ぎ」
安心しきったその寝顔が少しだけ憎らしくなる。寝ろと言ったのは己だか、当初の予定ではこんなことになるはずじゃなかった。きちんと寝かしつけて、寝ずの番に集中するはずだったのに。これじゃ、ルークが気になって敵の気配を見逃しそうだ。
朝方、まだ陽も昇らないうちにユーリはルークを起こした。けれどルークはぽやんとして意識がはっきりしていないらしい。レイヴンがすでに目覚めていたので、後事のことを託すとユーリはルークを毛布でくるんで抱き上げると近くにある小高い丘の上を目指した。辿り着いた頃、山の向こうが少し明るくなり始めていた。
「ルーク、そろそろ起きねえと本当に初日の出見逃すぞー」
「ぅ……?」
「初日の出。見たいって言ってただろ」
「はつ、ひので」
ルークがふ、と山の方に目をやった。そうすると光が差して、その眩しさに一瞬目を細めるけれど、ルークはふにゃりと笑った。
「きれい。また世界が生まれたね」
「何だそれ」
「世界はね生きてるから、一日ごとに死んで生まれかわるんだってレイヴンが言ってたんだ」
「お伽話みたいだな、それ」
「うん。俺は何かそれって悲しいって思う。たった一日だけしか生きられないって、もっと生きたいって思わないのかな」
「どうだろうな……たった一日だからこそ、一生懸命それこそ太陽みたいに輝くのかも、な」
どうしてそこでレイヴンの名前が出てくるのか首を傾げたが、ユーリはルークをさらに強く抱きしめた。そうして耳元で小さく囁く。
『 』
ルークはうん、と答えてユーリを抱きしめ返した。朝焼けは二人を包み込み、そして一つになった。
(君と僕の気持ちが重なる瞬間)
朝焼けの向こう
Congratulations!
Tea Party in TDL!
(おっかえり〜どーだったの?)
(……ルークに入れ知恵したのはあんたか)
(入れ知恵? ……ああ、世界のお話のことね)
(やっぱあんたか)
(べっつに良いじゃないの。首尾よくいったんでしょ?)
(あんま変な話を吹き込むのやめろよ。あいつだって必死に生きようとしてるんだ)
(およ俺様、釘刺されてる?)
(……ルークが、あんたのこと心配してた。まるで死んでるみたいだって……意味が少し分かったよ)
(…………深入りすると死んじゃうかもよ?)
(その時はルークも一緒だろうから、少なくとも俺は後悔しないな)
(あらら、のろけられちゃった。良いねえ、若人は)
――――――――――
ユリルクプチオフ会inTDL、おめでとうございます!
だがしかし、何か微妙なユリルクになったな。
ラストのユーリとレイヴンの会話、消した方がよりユリルクっぽいか。
うーん……精進精進。