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作品保管庫 | ナノ
「ルークは何にする? ってあれ、ルーク……?」
「おいおい、また迷子かよ……!」
「……手分けして探そう」
「ああ……くそ、今日何度目だっけか?」
「何度目だったかな。もう覚えてないよ」
ユーリ・ローウェルとフレン・シーフォは盛大なため息とともにお互い逆方向に駆け出した。
ちなみに当のルーク――ルーク・フォン・ファブレ御年七歳の子供は街の中をとぼとぼ歩いていた。
「ゆーりとふれん、いない……おれ、またまいごになった……」
今日はクリスマスだからと言って養い親であるナイレン・フェドロックはルークを買い物に行ってくればいいと送り出してくれたのに、外に出てからもう何度も迷子になっている。ユーリとフレンの手を離したら駄目だと何度も念押しされていたのに。
「ふぇっ……ゆーり、ふれん、どこぉ……!」
『泣いたらいけないよ、男の子なんだからね』
もういなくなってしまった父親の声が頭の中に響く。ルークは少しこぼれた涙を拭いて、恐々一歩を踏み出した。とにかくユーリとフレンを探さなければと思ったのだ。
「おや、これはルーク様ではありませんか」
「ゆーじーん、さん」
「どうぞ、ジーンとお呼びください。ファブレ公爵とは懇意にさせていただいておりましたし」
「……」
ルークはじり、と後退りした。ユージーンのことはもちろん父親が生きていた頃から知っているが、今のルークにとって彼は許し難い仇でしかない。今でも覚えている父の最期を。
『これで、良かっ、たんだ、よ。これ、で……ただ、お前を、残し、て逝く、のは……』
ルークは思わずぎゅっと目を閉じて両の手で耳を塞いだ。抱きしめていた腕が力を失っていくのを我が身で感じていた。どうして、とルークは叫びたかった。
「ちちうえ……」
恐る恐る目を開けるとユージーンの手が伸びるて、ルークはびくりと震えた。喉がひくりと鳴る。
「ルークッ……!!」
叫ぶ声にルークは泣きそうになった。
ユーリだ、ユーリだ、ユーリだ!
見つけてもらえた喜びと安堵でルークはぼろぼろ涙をこぼした。そうして、見慣れた黒髪の青年のを見つけてルークは彼の名を力一杯呼ぶ。
「ゆーり……!」
ユージーンが舌打ちをして、無理矢理連れて行こうとさらに伸ばされる手。ユーリはそれを触れる寸前で払うとルークを背に庇いながらユージーンを睨みつけた。
「あんたもしつこいな。ルークはあんたのところになんか行かねえっつってんだよ!」
「勝手に決めつけてはルーク殿が可哀想ですよ。彼にも意思というものが」
「るせぇ! ルーク見てりゃ分かるだろうが! あんたの目は節穴か?」
しばらく睨み合っていたが、やがてユージーンは悔しそうに顔を歪めると足早にその場を去っていった。ユーリは深く息を吐くとルークに向き直った。
「ゆーり、ご、ごめんなさ……!」
「まったくだ……けど、無事で良かった……」
ユーリはそう言ってルークを抱きしめた。ルークも精一杯腕を伸ばしてユーリにすがりつく。
「よし、帰るか」
「かいものは?」
「もう終わってるから安心しろ。帰ったらケーキ一緒に作ろうな」
「うん、つくる!」
ユーリはそのままルークを抱き上げると歩き出す。
急に冷たいものが顔に当たってルークは驚いた。見上げると雪がはらはらと落ちてきている。ルークはふにゃりと笑って片手をかざす。
「ゆき!」
「ああ、今日は寒いから、いつ降るかと思ってたが……」
ユーリも軽く見上げて白くなってゆく世界に一瞬見惚れた。不意に声がそちらを見るとフレンだった。ユーリはルークと顔を見合わせて軽く微笑み合うと歌い出した。
『きよしこのよる、ほしはひかり、
すくいのみこは、まぶねのなかに、
ねむりたもう、いとやすく』
フレンがユーリたちに追いついて呑気に歌を歌っている場合か、風邪を引いたらどうするんだと怒られたけれど、ユーリもルークも気にしなかった。
溶けるといい、全部。雪のように。ルークの中に芽生えた憎しみに似た感情も、雪のように溶けたらいい。
ルークはしばらく雪を眺めていたけれど、また鼻の奥がつんとしてユーリにしがみついた。涙がこぼれるのを知られたくなかった。そんなルークを察してユーリとフレンは子供の頭を優しく撫でた。
(たのしくて、かなしいひ)
君は一人じゃない
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クリスマス。
でも何か暗い。
何かのお祝いに書いてボツにしたネタ。
勿体無いのでサイトのクリスマス用にしてみた!