薄桜荘へようこそ! | ナノ

これは料理とは呼べない。


こんにちは。
突然ですが、赤坂紫苑、ピンチです。
ろくすっぽ包丁も握ったことのない私が、みなさんの食事を作れだなんて…みなさん、まさか死にたいんです!?


「赤坂、テメーそんなに料理できねぇのか?」

「まるでできません」

「おいそこ威張るな」


薄桜荘の食事は、当番制で、五月も半ば、とうとう私にも当番が回ってきてしまった。
キッチンでフライパンと睨めっこしていると、私を起こしてくれた土方さんが顔をのぞかせた。
悪いけど、目玉焼きもできないからね!


「調理実習などはしたことがないのか?」

「ちょう……何?」

「駄目だこりゃ」


斎藤君と平助君にもすっかり呆れられているけれど、だって仕方ないじゃん!そういう家庭と学校で育ったんだから。


「紫苑ちゃん、私も手伝うから、一緒に頑張ろう?」

「でも千鶴ちゃん…私、卵割っただけなのに」

「…どうやったらこうなんだ」


ボウルの中には潰れた黄身とわずかな白身、それから卵の殻の残骸。あたりには白い殻が飛び散っている。
先ほどなんとか卵をひとつ焼いたけれど、あまりに食べられたものではなかったので、こっそりと処分した。…たぶん、みんなが見ても炭か何かだと思ってくれる。はず。


「お、お弁当は私が作るから、紫苑ちゃんは朝ご飯をお願い」

「そんなことしたらみんな出掛けられないよ!!」

「そんなにやべぇの?」

「些か大袈裟だな」

「もはや次元が違うの!」


どうしてみんなわからないのだろう。身の危険が差し迫っているというのに。
少なくとも、おにぎりは作れる。具を入れなければ。具を入れると、急に味付けがおかしくなる。何にもしてないはずなんだけれど…。
うん、みんなには悪いけど、今朝はおにぎりで我慢してもらおう。
そう決心すると、私はさっそくお釜のご飯に塩をふって、木べらで混ぜる。せめて食べられる物を作らなくちゃ。


「…赤坂、テメーまさかおにぎりですませる気か?」

「じゃなきゃみなさん死んじゃいますよ!?」

「死ぬか!んなことで!!」

「死にます!本当にヤバいんです!」


土方さんはさっぱり理解してくれない。自分が料理できるからって。
こうなったら、一度見せて納得させた方がいいかもしれない。そうすればきっと、おにぎりでも許してくれる。うん。


「…じゃあ、今から目玉焼き作りますからね。見ててくださいよ」

「はあ?」

「いいから!」


土方さんを引っ張って、卵を温めたフライパンにわりおとす。
意外と綺麗に割れた。…黄身は潰れてるけど。
ジュウジュウと焼ける音がして、程良い固さになった頃に、お皿に取る。


「これでもまだ、食べますか?」

「こ、れは…」


そこにあるのは、なぜか黒こげの物体で。







「これはお世辞にも、料理とは呼べ…んな」

(さ、斎藤君!?平助君!?)(まさか…朝食ではないだろうな?)(違います!朝はおにぎり!)(…紫苑、やっぱ料理できな)(うわーん!!)



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