フローラル・コロン



「何故人間はセックスをするんだと思う?」

ふいに発せられた伊佐奈の問いかけにワシは驚いて一瞬手を止めた。
何度かキスを交わしながら前戯に徹し、さてようやく肝心な行為に及ぼうという直前のことだった。情事の最中にしては不躾な質問であるだけでなく、伊佐奈の顔にはどこか面白がるような色が滲んでいる。

「子孫を残すため、か?」

「…少し違うな」

伊佐奈は鼻先にくたびれた布きれを押し当てて深く息を吸い込みながらワシを見上げ、半分だけしかない人間の口元を可笑しそうにつり上げて笑った。

「ま、単なる道楽さ」

「ほう?」

「遊びのために身体を交えるのは人間だけだ。わざわざ同性同士で排泄器官を使うのも」

「いや、どうだかな?ワシはまだ片手以外ウサギじゃ」

「じゃあ発情期だとでも?」

「クク…そうかもしれん」

ワシは伊佐奈の湿った膝裏を高く固定したまま、股間に顔を近づけた。そこはまだきゅっとキツくしまってつつましやかな綺麗な色をしている。
空気の振動に感じたのか、伊佐奈はヒッと軽く息を漏らした。
ワシは白々とした臀部から割れ目にかけて丁寧に愛撫を行いながら、舌を使って窄みの周りを舐め上げた。くちゅくちゅと厭らしい水音を立てて舌先を尖らせ差し込んでいくと同時に、伊佐奈が頭上で甘い吐息を吐くのが聞こえる。

「どうじゃ?」

舌をペロリと突き出したまま尋ねると、伊佐奈はビクッと身体を震わせた。

「お、おい椎名っ…そこで喋るな。息がかかる…」

「?…ああ。悪い悪い」

ワシは心にもない謝罪をしつつ、今度はわざと彼の敏感な部分に息を吹きかけた。

「あっ…う、あ…!」

「…成程。こういう遊びをするのも人間だけかもしれんな?」

唾液でベトついた伊佐奈の中に指を一本突きたてながらワシはニヤリと笑った。

「無駄な前戯を行うのも、感じさせるためのテクニックを知りたがるのも、セックスごときに一々刺激を求めるのも」

「あっ、や、ぁ…奥っ、もっと奥、奥まで……」

「確かに、お前もワシも人間じゃ」

厭らしい。そう呟いて指の数を増やし、奥のしこりを目指してじわじわと進めていく。
伊佐奈は相変わらず布きれを鼻先に押し当てて息を吸い込みながら、深い刺激に居ても立ってもいられないといったふうに腰を揺らした。
彼が嗅いでいるのはよく汗を吸ったワシのシャツである。
やめた方がいいのではないかと提案したワシに対し、これがあった方が気分が高揚するのだと彼は言い張った。
そこで話は冒頭の質問に戻るわけである。

『何故人間はセックスをするんだと思う?』

セックスの持つ意味は生物学的に証明できるが、汗の匂いがどうしても必要かどうかなどワシに分かるはずがない。一つ言えるとすれば、この性癖が限りなく変態臭いということぐらいか。
――が、ワシは決して失敬な男ではないのでここは大人しく口を噤んでおくことにする。

「ぶっちゃけそれ、臭くないのか?」

「全然」

例えるならまるでフローラルコロンの香り。伊佐奈はそう言って薄ら笑いを浮かべ、ワシの顔面に欲を吐き出した。




20101222

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