更正プログラム:03
「何だ貴様。散々期待させておいて結局これか」
「期待してくれていたんですか?嬉しいです」
弾んだ声で答えながらシャチがお椀によそって渡してきたのは、多少焦げてはいるものの一応は焼きそばである。ちなみにお椀といっても石を荒削りしただけのアホみたいな重さの食器で、持っていると手がガクガクする。全く、この文明の時代に原始人気取りか俺たちは。
「別に褒めてねえんだが…。ってちょ、しかもこれピーマンも人参も入ってるし。いらねっ!」
夜空にきらめく銀河のごとく無駄に散りばめられたピーマンを摘んで取り出そうとしていると、ぬっと視界を遮った黒い手が俺の腕を掴んだ。
「お残しはいけません」
「やだよ!これ食ったら俺死ぬよ!」
「私も食べるので大丈夫です」
「は?あなたが死ぬなら私もってか?心中とか冗談じゃねえよ!」
これはひょっとして無理矢理食わされるのではないかと危惧した俺は、ほじくり出した野菜の欠片を部屋の隅に放り投げた。
ポーンと鮮やかに宙を舞ったピーマンたちは壁に当たってべちゃ、と情けない音を立ててから綺麗とはいいがたい床に落下した。
よし、こうしてしまえば流石のシャチも観念するだろうと、内心ガッツポーズをしながら振り返った俺であったが――、
「――館長」
「な、何だよ…」
「おしおきが必要なようですね?」
言葉にしがたいほどの屈辱的なおしおきが終了した後、再び俺は焼きそばと対峙させられていた。
床に落とした野菜は海水で洗って元通りお椀の中に戻されてしまい、シャチは俺が珊瑚製のフォークを手にヒーヒー言っているのを興味深そうにじっと眺めている。この鬼畜め。
「もうやだ。代わって…」
「人間の親は自分の子供に何でも食べるよう教育するんでしょう?館長はそのように言われませんでしたか?」
「そんなの知るかよ」
「今まで焼きそばの野菜はどうしてたんですか?」
「かあ様のお皿に入れたら、食べてくれてたような…」
「流石は坊ちゃん!」
「くそ、馬鹿にしやがって」
「別に馬鹿になんかしてませんよ。館長を更正させるのが後見人たる私の努めですからね。ってことで、ハイ、あーん」
「だからあーんとかやめろよ。すげえ恥ずかしいんだってマジやめろ!」
「羞恥プレイは効果てき面ですね」
「うわ!やめろよ!こっち見んな死ね!」
「でも見張ってないと食べずにこっそり捨てるでしょう?」
「……おっしゃる通りです」
「やはりそうでしたか。はい、あーんして」
「…………あ……あーん…」
結局全ての野菜を処理するのに二時間かかった。
本日の経験を通して一つ分かったことがある。俺が何故ウサギに勝てなかったかについてだが、聞くところによると椎名は俺の嫌いな人参を毎日山のように平らげるという。
つまり人参には科学的に証明されていない何らかの有効成分が含まれているかもしれないということだ。
20110312
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