アクアリウム.1



「失礼します」

ノックをして呼びかけたが生憎中からの返事はなかった。留守…ではなさそうである。俺の把握しているスケジュールによれば本日の彼の用事は全て終了している。
ノブに手をかけて回してみるとあっさり開いたので、俺は恐る恐る館長室へと足を踏み入れた。
薄暗い室内にひと気はなくしんと静まり返っていたが、ソファの前に置かれた点けっぱなしの薄型液晶テレビだけが煌々と光を放っており、俺は思わず目を眇めて呟いた。

「…流石はボンボンだ。電気代の無駄遣いも甚だしい」

どうやら伊佐奈はつい先刻まで録画した番組を見ていたらしく、画面は録画一覧を映し出している。カーソルがその中の一つを指し示した状態で止まっていた。
タイトル欄を読んでみると“魅惑の海〜深海の生命を探る〜”。海洋生物を特集した公共放送のドキュメンタリー番組のようだが、辺りにはそれにそぐわない何とも言えない独特の匂いが立ち込めていた。その匂いに心当たりのあり過ぎる俺は気持ち悪いと思いつつもつい頬を緩めてしまう。
伊佐奈が座っていたと思われるソファの回りやガラステーブルの上には雑誌類が乱雑に散らばっており、俺がその一つを拾い上げて眺めてみれば随分と使い込まれて分厚く広がっていた。
几帳面に付箋の挟まれたページを開くと、でかでかとホエールウォッチングの特集記事。
さらにその雑誌の下にあったものも取り上げてみたが、今度は打って変わって人間の雄が好むような極普通のグラビア雑誌である。ごちゃごちゃと活字の躍る表紙には布の少ない格好をした人間の雌が微笑んでいる。
このように一見してまったく共通点のない異なるジャンルの雑誌が一緒くたに積まれているのには、実はそれなりに意味がある。
伊佐奈にとってはグラビア誌も、あくまで健全そうに見えるホエールウォッチングも大して変わらない。
ずばり、この両方が性欲のはけ口なのである。
人間で27歳と言えばつがいを選んでもおかしくない年頃らしいが、伊佐奈に限ってはその最悪の性格と呪われた顔の左半分のせいで相手が見つからないのだろう。ヒトとクジラの混じった曖昧な身体を持つ彼は、日々こうして種族を超越したオカズで欲求を誤魔化すしかないのである。

「…何をしてる、シャチ」

背後からヒタヒタと足音を立てて近づいてきた人の気配に、俺はゆっくりと振り返った。

「すっきりしましたか?…館長」

「……」

俺が思わせぶりな口調で問いかけると、ちょうど風呂から上がったばかりの伊佐奈はむっとしたように顔をしかめた。自分の異常な性癖を棚に上げておきながら、俺が勝手に部屋に入ったのが気に食わないのだろう。
Tシャツにトランクス一丁といったラフな格好をした彼は、頑なな表情のまま俺が手にしていた雑誌をさっと取り上げた。テーブルの上に腰を屈め、散らばっているものを一緒くたにまとめて片付け始める。

「…まあ、悪くはないですけどね。56ページのマッコウクジラの雌」

「黙れ。お前にあの娘の価値なんて分からないくせに…」

その発言自体がおかしいのだという自覚がないのだろうか。この男は自分で思っているよりも性の感覚があやふやになっているらしい。
俺は口元に手を当ててクスリと笑った。

「だいぶ、溜まってたんでしょう?充満してますよ、匂いが」

「黙れっつってるだろ」

ああ、そんな可愛くないところもでら可愛く見えてしまう。
不覚にも欲情してしまった俺は鬱陶しそうに吐き捨てた伊佐奈の胴に腕を回してぐいと抱え上げ、そのまま館長室に面したアクアリウムに向かってずんずん歩いていった。

「な!?下ろせシャチ!食うぞ!?」

「ん…?貴方に食われる気なんて毛頭ありませんけど、私を食ったら誰が貴方の夜の相手をするんでしょうね?」

「…………」

俺は言葉を失った伊佐奈を見下ろしてニヤリと口元を緩めつつ、鋭利な頭で水槽を突き破ってその中へ踏み込んだ。アクリルガラスは壊れた端から伊佐奈の魔力で修復されてすぐに元通りになるため、問題はない。
俺はガラス壁に伊佐奈の身体を押し付け、上半身を覆うシャツを捲り上げた。
オナニーの際に自分で弄っていたのか、現れた二つの突起はほのかに色づいてぽってりと隆起していた。
乳輪の周りを舌でしゅるりと舐め上げる。
伊佐奈は喉の奥でくぅと呻いて肢体を縮こまらせた。

「あ…、あんまりしつこくするな…。俺は、疲れてるんだ…」

「何回したんですか?」

「……そんなこと、どうでもい…」

「いえいえ。でら気になりますよ」

俺は小柄な身体を覆う邪魔な衣服をほぼ全て取り払ってから、するりと伊佐奈の割れ目に手を這わせた。
驚いたことに、そこにはまだ風呂でも使える防水性のローターがすっぽりとはまり込んでいる。

「へえ、何だかんだ言って誘ってたんですか。…厭らしい人だ」

「ん…、あっ!」

小刻みに振動するそれをスポッと一気に引き抜いてやると、伊佐奈の身体は面白いくらいに跳ねた。俺は伊佐奈の恥部がもっとよく見えるように身体の向きを逆さにひっくり返し、内容物を失ってヒクヒクと痙攣を繰り返すアナルをじっくりと眺めた。
たった今の今まで酷使していたために入り口は広がって腫れ上がり、赤い肉が外側に捲れ上がって奥の方までよく見える。…美味そうだ。

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