プレイボーイ



※イサ華


俺は稀に人間の女以外に欲情することがある。
人間以外というのは勿論クジラだ。体に受けた呪いの影響でときたまマッコウクジラの本能に引きづられてしまうのだろう。
以前外海の方へ珍種の魚を捕まえに行った際に偶然出くわしたメスクジラとヤったことがあるという話を数日前に動物園の二人にしたら、俺と同じく呪い持ちで欲求不満の椎名は羨ましそうに聞いていたものの、その隣にいた華には滅茶苦茶ドン引かれてしまった。
ああ、勿論こんな話をしている俺自身だってドン引きだ。
何が楽しくてあんなドデカいぬるぬるの寸胴ガールと好き好んでイチャイチャしなきゃならない。
ウサギみたいに見た目のいい動物ならともかく、クジラなんかと比べりゃどう考えたって人間の女の方が柔らかくてすべすべしてボンキュッボンでありながら尚且つ華奢な感じで、声も可憐だし目もくりくりきらきらと可愛くてすごく興奮するはずだ。あのときの俺は絶対とち狂っていたに違いない。
華にちらりちらりと視線を送りながらそんな言い訳を付け加えたら、彼女はどうやら一般的な年頃の乙女ばりに照れてしまったらしく(?)しばらくまともに話もしてくれなかった。

「なあ、華。ヤろう」

「すみませんが丁重にお断りします」

「ん?どうしたんだそんなに照れて。ほほぅ、これがよくあるツンデレってやつか」

「そんなわけないでしょ。頭沸いてんですかこのボンクラ」

「ちょ、何だよ冷たいな。前は結構頻繁に構ってくれたじゃないか」

「ふん。どうせ伊佐奈さんなんて夜な夜な海の女の子たちと遊んでるんでしょ。コンドームつける手際もやたらといいし」

「何言ってるんだ。俺が海の女の子相手に避妊具を使うわけないだろうが」

「あっそうでしたか。まあ確かに二メートルのブツに被せる避妊具なんて存在しませんよね」

「ちょ、お前な」

「そのうち海からいっぱい伊佐奈さんのお子さんが押しかけてきたらどうするんですか。責任とってくださいって言われたところで養育費賄えるんですか。餌代馬鹿になんないですよ?」

「いや…。なあ華、よく考えろ。クジラの女はそんなに利口じゃない。弁護士雇って裁判とか有り得ないから」

俺が諭すように言い聞かせながら華の手を取ると、彼女は黒目がちの瞳を鋭く細めじろりとこちらを睨み上げた。

「否定しないんですね、海にお子さんがいっぱいいることは」

「……」

「最低です、伊佐奈さん」

「…もしかして妬いてるのか?」

「そんなわけないでしょ。ドン引きですよドン引き。動物相手に本気で欲情してる伊佐奈さんなんて気持ち悪すぎです!」

華は怒ったように一気にまくし立てるなり俺の手を無理矢理振りほどき、おまけに額に一発デコピンなんぞかまして颯爽と館長室を出て行ってしまった。

「ま、待て華!俺は……」

バタンと扉が閉まる音とともに俺の声は尻すぼみに消え、残されたその場で呆然と立ち尽くした。





その夜俺は、大量の子クジラが押し寄せてくる夢を見て激しく魘された。
奴等は子供のくせにドデカい図体で水族館の壁に体当たりして完璧にデストロイした挙句、ヨウイクヒヨウイクヒキュイキュイなどと喧しく鳴きながら預金通帳やらクレジットカードやらを猛烈な勢いで噛み砕くのである。

「うわああああああ!!」

「…うるっさいなあ。今何時だと思ってるんですか」

ガバッと跳ねる勢いで飛び起きた俺は隣で鬱陶しそうに寝返りを打つ華に顔を向け、未だ夢見心地のまま呆然自失の体で問いかけた。

「お前さ…俺が前にあげたネックレス……まだ持ってる?」

「え?…はい。そこに置いてありますよ」

寝転がったまま華が指差すサイドボードに、キラリと光るピンクゴールドのネックレスが見えた。

「…よかった。これで文無しにはならずに済みそうだ」

「はい?」

俺は安心してホッと息をつきながら再びベッドに横になった。
しばらくして落ち着いてみたら全てフィクションだったと気付いたのだが、それにしたってよく考えろ、俺。
クジラはそんなに多産じゃない。俺の血を引く子クジラがいたとしても精々ニ、三頭ってところだろう。数え切れないほど押し寄せてくるなんて、ない。絶対ない。

「ちょ、だからお子さんの存在を否定してくださいってば」

「アレ?聞こえてた?」




20100109

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