証明してみせて!



「あー!」
 ある日の夜半、こっそりと部屋に戻ったつもりが盛大な不満声によって迎えられた。この声はアリババだろう。他国の高官の接待で帰りは遅くなると告げてあったので、もうとうに寝付いていると思っていたのだが。
「た、ただいま……?」
「シンドバッドさんったら、また女の子と遊んでたれしょー?」
「えっ」
 接待が理由とは言え、二件目でクラブに行ったのは事実だったので図星をつかれてぎくりとする。
 けれど遊んだというほど遊んだわけではない。店の女の子ともっとべたべたしたかったところを自制して公務を優先せねばならなかったのだ。行動をともにしていたマスルールに止められたこともあって今日は正気をなくさずに済んでいるし、どこで何をしたのかきちんと覚えている。
 アリババは薄暗がりの中を俺のそばまで寄ってくると抱き着いてくんくんと匂いを嗅ぎだした。
「うええ、お酒くさいしもぉ最悪ー」
「ちょ、アリババ君離してくれ、首が苦しい。っていうか君こそめっちゃ酔ってない!?」
 枕元の明かりをつけるてみると、案の定アリババの顔は赤く染まっている。
「んなわけないれっしょー? 俺はぁ、至って正常らもーん!」
「いや舌回ってないし」
 酔いで態度の大きくなったアリババは俺の話などまるで聞かずに勝手に語りだした。
「大っ体シンドバッドさんは女遊び激しすぎなんれすよー。俺という存在がありながらあっちでふらふら、こっちでふらふらぁ。その尻軽なのなんとかしてくらさいよぉ」
「分かった、直すよ」
 俺はうんうんと頷いてみせ、
「で? そんなになるまで誰に飲まされたんだ?」
「だぁからぁ、飲んでませんってぇ。あ? うんとね、えーとそうそう、ジャーファルさんとね、あなたの話してたんですけどねー?」
「俺の話を?」
「シンドバッドさんの浮気を直すにはぁ、やっぱ身体に教えてあげるのがいいと思うんでぇー」
 彼が言うや否や、突如ぶわりと熱風が空を凪いだ。
 アリババが剣を抜いたのである。
 直前に気づいたためかろうじて無効化できたが、彼がぐでんぐでんに酔って動きを鈍らせていなかったら、魔力操作に慣れた俺でも危なかっただろう。
「な、何てことするんだいきなり! 危ないじゃないか……!」
「シンドバッドさんが、俺を愛してくれないからですよぉ?」
 アリババは恨めしそうな目をして口を尖らせた。
「何言ってるんだ、愛してるってば。俺のことが信じられないのかい!?」
「愛してるなら証拠、証拠見せてくらさいよ」
「証拠!?」
「シンドバッドさんの貞操ください!」
「え!?」
 手の力が緩んだすきに振りほどかれ、再度小太刀が振るわれた。
 俺を見つめるアリババの目は完全に据わっている。
「もうキス止まりの綺麗な関係は飽きたんれすよ。大人になってからねとかそういうのもういいんでえっちしましょうえっち! 俺のこと愛してるんならそういうとこちゃんとしてくらさい」
 ズシャアア、と盛大な音とともにシャツが切り裂かれた。さすがはバルバッドの王宮剣術使い、狙いも力加減も正確だ。
「ひいいいっ! やめっ、やめてくれ! セックスなら服を破かなくても――!」
「童貞なめんなよー?」
 ひっひと甲高く笑うアリババに別の男の面影を見た。
 そうか分かったぞ。
 ジャーファルがまたこの純情な少年を面白がって余計なことを言ったに違いない。俺が余所で誰とあんなことをしたとか、こんなことをしたとかあることないこと吹き込んだのだろう。
「落ち着こうアリババ君、君の気持ちは分かった、からっ」
「全っ然、分かってないっ」
 彼はふんと一蹴して下着に手をかけた――かと思うと突然前のめりに突っ伏した。
「アリババ君!?」
「シンドバッド、さんの、見ちゃいま……ごふっ」
 彼はだらだらと鼻血を流しながら俺の腕の中で失神した。




20120423

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