sleeping angel



 朝自室で目を覚ますと、隣で全裸のアリババ君が寝ていた。
「えっ? な、まさかこれは……」
 嫌な予感がした。何故かずきずと痛む頭を抑えつつ、シーツを捲って彼が下に何も身につけていないことを確認する。
 現状を把握した途端どっと冷や汗が噴き出してきた。
 この感じはデジャヴだ。彼と致した記憶は全くないが、正直昨晩のことはよく覚えていない。祝宴の席で少々羽目を外してしまったかもしれなかった。
 しかも今度は紅玉姫のときとは違って俺も彼も素っ裸であるからして、もはや言い逃れの余地はない。
 大変なことになった。
 酒癖の悪さに関しては幾度となく側近たちに厳重注意されてきたが、遂に女性どころか少年にまで手を出してしまうとは。
 王が少年嗜好であるなどと知れれば国王としての品格に傷がつく。
 保身以前にここはアリババ君のためにも、彼が目覚める前に証拠を隠滅せねばなるまい。
 そう思い身体を起こしかけたのだが、腰を動かした途端予想外の鈍痛に悶絶して再びベッドに撃沈した。
「な、な、な!?」
 びっくりマーク一個ではとても今の衝撃を表現しきれまい。
 俺は痛みの余韻にかたかたと全身を震わせながら、眠りこけるアリババ君を凝視した。
 腹立たしいほど幸せそうな顔をして気持ちよさげに惰眠を貪っている。
 が、一方で俺の腰はずきずきと不快な感覚を訴えていた。
 恥を承知でダイレクトに表現すれば、まるで痔かと思うほどなのだ。
 そんな風に言うとまるで本当に痔を患った過去があるかのようだが、俺とて人の子。じきに三十路に差しかかろうという年齢なので、多少イメージを悪化させる症状も経験している。
 思えばあのときは本当に大変だった。毎朝トイレに行くのが嫌で仕方がなく、馬には乗らないと言い張ってパレード前に事情を知らないジャーファルと大喧嘩したこともある。
 ただし現在体調には問題ないので、このような症状をきたした原因は一つしか考えられない。
 ノーマルを自負する俺とて、男同士の行為がどういったものなのか想像くらいはつく。裸のアリババ君とベッドに入ったということは恐らく――きっと多分――そういうことなのだろう。
 あるまじき展開に理解がついていかず、くらりと眩暈を覚えた。
 何故って、こんなに可愛らしい顔で眠るアリババ君が俺の到底綺麗とは言い難い場所に執着するなんてどうして信じられようか。
 仮にそうだとしよう。もの好きにもほどがある。多感な年頃の少年が俺のようなおっさんと絡みたいわけがない。
 どうせ昨晩は彼もぐでんぐでんに酔っていたに違いないのだ。誰が目の前にいるか誤認したまま致していたのだろう。目覚めたときにはこちらの被害などすっかり忘れて、しらっと迷惑そうな表情で俺のハートを抉るに決まっている。
 そんな理不尽な展開は死ぬほど嫌だった。
 従って俺は痛む腰をおして熟睡中のアリババ君を自室に戻すことにした。
 どうにか上体を起こして最低限の衣服だけは身につけ、シーツでくるんだ彼の身体を両腕で抱え上げて一歩廊下に出たところへ――、
「おや、シン。おはようございまっ……ってその子は!!」
 現れた側近は爽やかな笑み引っ込め、顔面をぎょっとひきつらせた。
「いや、あの、ジャーファル違うんだこれは」
「あなたという人は……あなたと言う人は! こんな少年にまで手を出すとは何たる下劣! 見損ないました!」
「下劣!? 違う違う! これには事情が」
 理由を説明する暇など一切与えられなかった。
 ズシャア、と頭すれすれの位置を眷属器が矢のごとく通り過ぎた。
 咄嗟に体をひねって一撃を回避した俺をさらに二言三言罵倒したかと思うと、彼は憤然と身を翻し来た道を走り去っていった。
 ぜえぜえと息を切らしながら、頭の中で状況を整理するのにたっぷり数秒はかかった。
 俺は暫し壁に深々と突き刺さった眷属器の隣で呆然と固まっていたが、それまで腕に抱えていたものがもぞりと動く気配で我に返った。
「ん? あれれ、シンドバッドさん?」
「ああアリババく目が覚め……んぐっ!」
 寝起きの少年が急に身体を起こしたせいでバランスを崩してしまった。
 ぺたんと床に尻もちをついた俺の上にアリババ君の重みがかかる。
 唇に侵入する生ぬるい湿り気から、彼にキスされているらしいと理解する。
 確かにキスは好きだ。美女の接吻なら喜んで一日中受けているところだし、百歩譲って仮にそれが男の子のキスだとしても唇がふわふわならまあ許そう。
 しかしこのアリババ君はダメだ。いかにも童貞丸出しの下手くそだったので思わず殴りたい衝動に駆られてうずうずしたが、いざその段になってどつこうとすると行くなと言わんばかりに可愛い手でしがみ付かれてしまい、身動きが取れなくなった。
 男であるという要素を除けば、一生懸命に吸いついてくるアリババ君は、まあそれなりに可愛らしい。
「シンド、バッド、さん……いか、ないで?」
 濡れた唇で懇願され、理性は呆気なく瓦解した。
 彼に促されるままに寝室へ逆戻りし、記憶にない昨晩を再現すべく官能の世界に突入した。




20120422

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