SEXY PANIC:07



俺は紀田正臣、
ラブラブランデブー愛の戦士だ!

あ、いや、嘘ですごめんなさい。本当はただのチンピラ将軍です。しかも先日謀反にあって殺されかけました。もう将軍ですらない。現在は部下なし、妻(?)一人。そのくせ職業はアルバイターというなんとも心もとない有様で、しかも上司はあの頭の螺子が数本取れた折原臨也。
というわけで色々と不満はあったが(主に上司に)、俺はいつものように頼まれていた仕事を抱えて彼の待つマンションに向かった。

「こんっにちはー、紀田どぇす!」

インターホンの前に立ちながら、ドアが開けられるのを待つ。
大抵は折原本人が出てくるのだが、今日は珍しく秘書の波江さんが顔を出した。何故か頬に巨大な絆創膏を貼りつけている。

「あーら、正臣君いらっしゃい」

なーんて朗らかに笑いながら馴れ馴れしく肩を叩いてくる。
――あれ、この人こんなだったっけ?もっと冷めた感じじゃなかった?ていうか俺、前から下の名前で呼ばれてたっけ?
身体の距離が近すぎて柑橘系の香水がふわりと香り、俺はくらっとしそうになる頭を手のひらで押さえた。
波江さんはそれを知ってか知らずか、まるで機嫌のいい折原ver並みの高テンションで話しながらリビングに向かう。

「あ、臨也さんこんにちわー」

「ああ、き…正臣くん、どうも」

折原は事務机の書類の山に埋没していて、挨拶がてらチラリとこちらを見ただけだった。仕事が溜まっているのか、虫の居所が悪いらしい。
一方の波江さんときたら、俺が見たこともない爽やかな笑顔を振り撒きながら台所にスキップしていき、飲み物を手に戻ってきた。こちらは逆にもの凄く機嫌がいい。

「はいどうぞ!」

「えっと、これは…」

淀んだ怪しげな液体に目を落とす。

「緑茶とコーヒーとコーラを混ぜてみたの。名付けて波江スペシャルよ!」

――あれ、この人ってこういうキャラ?

「あっはは、波江さん面白いこといいますねー!あ、え?これ俺に頑張っちゃえってことっすか?困っちゃうなああはは!」

綺麗な女の人には逆らえないのが悲しいかな、男の性(さが)というやつである。
俺は半笑いで波江さんを見つめたあと、どうみても有害そうな液体をおもむろに一口煽り――即刻むせ返った。

「げぼおっ、ぶはあっ!ちょ、波江さんこれ、ヤバイっすよ!」

「ちょっと、なにやってんの。イザ…波江さん」

折原は音に気付いて書類の山から顔を上げ、憐れみさえ篭った奇妙な目で俺達を見た。

「てへっ。波江つい悪戯しちゃったぁ!」

「死ねよこのノミ野郎」

全く悪びれた様子のない波江さんに、ひたすら冷たい折、原…?

「ン?アレ?今日の臨也さん、なんか鬼畜っすね…?」

一体どういうことなのかと小声で波江さんに訊くと、彼女はおかしそうにクスクスと笑う。

「あの人今日女の子の日なのよ、きっと」

「え?いや臨也さんもしかしてそっち系に目覚めちゃったとか…?」

「そこ!聞こえてるんだけど!」

「ひいっ!?」

何の前触れもなくボールペンが飛んできて、ブスリとソファの隙間に突き刺さった。
武器の出所に目をやると、いつにも増して鋭い眼つきをした折原がこちらを睨みつけている。正確には――波江さんを。

「ああもう、さっきから仕事はしない!かと思えばパンツの話しかしない!さらに今度は紀田君で遊び始める!もういい加減にしてくれる?織物シートはバッグに入ってるの使っていいってさっき言ったでしょ!パンツが濡れるから仕事ができないってのはナシにしてよね!」

――え!?
パ、パ、パンツの話しかしない波江さんに――織物シート!?この二人、普段どういう会話してんだ!?
っていうか折原ってもしかして、痔?痔なの?

「もう…臨也がそう言うなら仕方ないなあ。トイレで付けてくるわね」

恥じらう素振りもなくそう言って腰を上げる波江さんもどうかしている。きっと。
目には見えない何かがおかしい。

「えーっと…じゃあ俺、そろそろ御暇しましょうかね?」

「え、もう帰るの正臣君?」

波江さんが残念そうに言いながらこちらへと屈み込んだその瞬間、襟元から豊満な谷間がチラリと覗く。

「ぶっはッ!!なっ、ナイスアングルぅ!」

「え?」

「…じゃなかったすびばせんっ!し、書類はココ置いときまずんで!!では俺はこれにで…アディオーズっ!」

俺は茶封筒をバッグから出してテーブルに置くと、鼻を押さえながら一目散に事務所を飛び出した。
俺には沙樹がいる俺には沙樹がいる俺には沙樹がいるぅ…!
マンションの廊下を走りながら念仏のように繰り返したけれど、そこはやはり男の性、俺自身はいささか興奮気味の模様。
――だって波江さんの方が沙樹よりも…ねえ?
ていうか、今日のあの二人――やっぱりなんかおかしくなかったか?





20100821

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