SEXY PANIC:05



長々と二人で協議した結果、私たちはとりあえず臨也の事務所に戻ることにした。
身体が入れ替わったからといって仕事は減るわけではないし、電話の応対くらいなら私でも臨也になりすませる自信がある。ホテルなんかでこんなノミ野郎とイチャイチャしているよりは、その方がずーっとずっと生産的だろう。

「うわっ、波江さん!なんかコレ、パンツがぴちぴちして気持ち悪いんだけど」

「…慣れなさい。女性のパンツはそういうものよ」

ハイヒールを引きずる不規則な音。
脚が悪いのかと思うほどぎこちない動作でついてくる臨也を振り返り、あからさまに顔をしかめる。

「もうちょっと普通に歩けないの?何だかやたらとガニ股だし」

せめて、出掛けにジーンズに穿き換えさせておいて正解だった。スカートでこれをやられてはたまったもんじゃない。

「いや、だってさ。ってかそういう波江さんこそ相当内股だよ?まるでオカマみたいだからやめてよね、ぷぷ」

「黙れネカマ野郎」

私はピシっと言い放ち、歩を速める。
それでも臨也はめげることなく甲高い声でぴーぴー言いながら、背後から助けを求めてくる。
――私ってこんな気色の悪い声だったかしら?

「足痛いぃぃ!こんなんじゃ、歩けないよ!靴買って!」

「はあ?私だっていつもそれで歩いてるわよ?っていうかそれくらい自分で買いなさいよ」

「えーだって俺、財布持ってないもん」

臨也が両手をひらひらさせながら笑うのを見て、私自身、彼のマンションから何も持ってこなかったことを思い出した。あの時は動転していてそれどころじゃなかったのだ。
臨也の態度はいささか大げさだったが、まあヒールが痛いのは分からなくもない。自分だって、多少は我慢しながら穿いている身だ。
しかし通勤通学で人の溢れる時間帯だから、通りの真ん中で立ち止まっているわけにもいかない。私は臨也を引きずってさっと歩道の隅の方へ移動する。

「ほら、代わりにこれでも穿けば?」

足元にコロン、と自分の皮靴を脱ぎ落とす。
それを見た臨也は驚いたように目を丸くした。

「でも…それじゃあキミはどうするんだ?」

「え、私?――別に。こんなのどうせあなたの足だし、多少痛くても耐えられるわ」

「……波江さん」

「何?」

「キミってやっぱり酷い人だよね。…いや、知ってたけどさ」

「それはどうも」

私はニヤリと笑い、彼のためにもう片方の靴も脱ぎ落とした。





20100819

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