白のルチフェル:02
※帝青エロ
「ひっ…!あ、み――帝人せんぱ…ふぁあっ」
「もう…本当、いやらしいよね青葉くんは」
下ではあはあと喘ぐ後輩の尻たぶを掴んで左右に開きながら、僕は勃起した自身を奥へと押し付けた。
卑猥な水音と、狭い男子トイレの個室を満たす二人分の吐息。
「ふぁぁあっ、そこ、きもちぃ…ひんっ」
「ここ?」
「あっ、だめ、っああ」
声を聞かれる心配はほぼない。1階西校舎に位置する淀んだ気のするこのトイレに、授業をさぼってまでやってくる生徒は僕達くらいのものだろう。
僕はHR、青葉くんは家庭科。受験に要らない無駄な教科が被ることは週にそう何回もないので、行為はゆうに二週間ぶりだったのだが。
「案外、ガバガバみたいだけど――自分で弄ってたの?」
「やっ、言わないでぇ…あぁあっ、」
ぎちちちと接合部の軋む感触を愉しんで、腰を押しつける。自分でも、この身が欲っするのは相手の身体だけなのだと知っていた。肌の温度。セックスフレンドだと割り切っていても、執拗に触れ合ってさえいればどこか満たされる、この歪んだ自己欺瞞。
こんな僕でもいいと言ってくれた少年は――青葉くんは、涎と涙でグシャグシャにした顔を微かに緩ませて笑った。
「先輩の…その顔、すきです」
「そう?僕には、よく分からないけど」
赤く熟れた秘部に自身を抜き差ししながら曖昧な笑みを返す。
「でもすき、です。――っ、せんぱ…い、キス、して?」
「青葉くんてば、淫乱」
僕はあられもない痴態に苦笑しつつも、しっとりと濡れた頬に手を添え唇を重ね合わせる。
――こんなもの、大事なのは最初の一回だけだ。
あとはどうでもよくなる。
中三の夏、部活後の更衣室で青葉くんの不意打ちによって奪われたファーストキス、あの頃が懐かしい。ファーストキスは大好きなあの人となんていう乙女染みた妄想は、あれを境に捨てた。
「ねえ。そこ、誰かいるの?」
「!!!」
二人だけの世界に突如割り込んできたのは、第三者の声だった。
行為ばかりに夢中になっていた僕らは、ぎょっとして互いの顔を見合わせる。
サンダルでぺた、ぺたとタイルの床を踏む気配が近づいてきた。それは唯一閉ざされた個室の前、僕らの目と鼻の先で足を止める。
「あ、いや。なんか声が聞こえたからさ。お腹壊してるんなら保健室に下痢止めとかあるけど、どうかなって」
心臓が、止まったかと思った。
聞き慣れたその声――耳に浸透する軽快なテノールの音に、ただ僕だけが鋭く息をのむ。
「あ…お、折原先生?や、ただちょっと腹冷やしちゃっただけなんで、大丈夫、ですんで…!」
青葉くんがしどろもどろに返答する間、僕は呆けたように静止したまま息を潜めていた。
半裸で繋がった自分たち。うすっぺらな扉たった一枚を隔てた向こうに、折原がいる。それだけで既に僕の中の後悔は頂点に達していた。
死ぬほど恥ずかしくて、身が焼けそうだった。
それは勿論、他の先生であっても変わらなかったかもしれない。
だけど、そうではないかもしれない。
「そっか。じゃあ…お大事にね?何かあったらいつでも俺んとこ来なよ?」
「あ、はい…!どうも、すいません」
「いや、こちらこそ。失礼して悪かったね」
扉が開閉する気配、遠ざかっていくサンダルの足音。
彼の気配が完全に消え去ってしまうまで、僕は動けなかった。何故か、何かこの上ない悪事を犯している気がして。いや確かに僕らは、病気でもないのに授業をサボっている時点で十分悪いのだけれど、でもそれ以上に、何か。
「先輩?」
「ん――ああっ、ごめん…!」
ハッと我に返り、反射的に謝った。
「別にいいですけど。それよりほら、続き…しましょうよ?」
ああ、青葉くんがねだっているのだと、僕はざらついた思考で理解する。
――そうだ、本来僕は彼に応えてさえいればいい。
僕はおもむろに抽挿を再開したが、先程までとは確実に何かが違っていた。いや、元々潜在的にそこにあったものが顕現したとでも言おうか。青葉くんの唇は変わらず柔らかくて甘ったるいのに、それを貪る僕の中には徒に背徳感ばかりが広がって。
「――先輩、何で…」
「え?」
「気付いてます…か?――泣きそうな顔、してますよ」
「…………ない」
「帝人せんぱい?」
「気にしないで、なんでもないから」
咄嗟に嘘をついて、使い古した臭い笑みを浮かべる。
――だけど。ねえ、考えてみてよ。
あくまでセックスフレンド。僕が好きなのは青葉くんじゃないんだから、罪悪感なんていらないでしょう?
冷めたもう一人の自分に囁かれたような気がして、ぞわりと背筋が冷えた。
20100920
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