SEXY PANIC:15



俺は規則的な水音を立てるシャワーのノズルを手に取り、丹念に身体の汚れを荒い流していく。

――一つ、彼女と約束をした。

今が恐らく、ほんの少しだけ残された“折原臨也”としての最後の時間になる、そんな気さえしていた。行為が済んでしまったら、俺は“女”になる。
波江さんは冗談交じりに「洗ってあげようか?」なんて言っていたけれど、いい加減俺のこと信用してよと断ったら、「別にそういう意味じゃないのに」って。よく分からないけど、俺にだって少しくらい心の準備も必要だよ。
もしこの先何事も起こらなければ、ゆくゆくはこの身体も自分の物として使いこなしていかなくてはならない。
けれど今の俺にとって、入れ替わったこの身体が元に戻るかなんてことは、正直なところどうでもよくなってきていた。
情報屋の仕事に関しては、波江さんも演技が上手いことだし、俺と彼女が居さえすればどうにでもなる。昨日の昼間みたいな危険は確かにあるけれど、それに晒されるのが波江さん本人であるよりは俺であってほしい。
男に戻れないのは少し残念だが、今はそれ以上に、波江さんと二人秘密を共有して生きていく方が魅力的に思えていた。

どこか覚悟めいたものを固めながら脱衣所でさっと身体を拭き、白いバスタオルをはらりと纏う。まだしっとりと湿った髪のままに寝室へ向かった。

「…波江さん?」

呼べば、部屋着姿でベッドに腰掛けていた男がぴくりと反応を示す。
俺はすたすたとベッドサイドへ歩みより、身体を起こした波江さんの脇に腰掛ける。彼女の手をそっと握った。

「本当に……いいの?」

抱いてもいいのかと真剣に尋ねる視線を、俺は笑い飛ばした。

「あはは…大丈夫、俺は食べ頃だよ。いつでもどうぞ?」

そんなつもりはないのに、ついおちゃらけた台詞が口をついて出る。

「何よ、それ」

「へへ…――波江さん、分かって無いね。俺はこんな言い方しかできないんだよ…」

このやり方なら拒まれても納得できるからあえてそうする。本当は、ただ傷つくのが怖いだけ。昔からずっとそうやってきたのだと。
俺は弱い自身をほんの少しだけ吐露しながら、そっと波江さんの胸板に触れる。

「…ありがとう、臨也」

彼女は俺の身体に手を回してキスをしてくれた。咥内で俺と波江さんの息が、唾液が混じって仄かに溶け合う。とても幸せな時間だった。
俺達はそうやって何度か濃厚な口付けを繰り返しながら、もつれ合うようにして柔らかいベッドの上に倒れこんだ。

「ふ…ぁあ……」

「タオル、とるわね?」

俺がこくりと頷くと、脇で合わせた箇所を解いてはらりとシーツの上に落とした。裸体を見られることよりも、僅かに赤らんだ波江さん(つまりは俺)の表情が逆に恥ずかしくて、つい視線を逸らしてしまう。

「…何だか変な感じね、自分の身体を触るのは」

波江さんは俺の首筋に顔を埋めながら言った。

「オナニーだと思えばいいよ」

「そうね。最近はあまりしてなかったから、感覚を忘れてしまったかも」

波江さんの指が両胸の突起を摘み、緩急つけながらくりくりと優しく揉む。刺激しているうちに赤らんだそれは硬く尖り、指の動きに従って電流のように突発的な快感が背筋を抜けた。

「あ、やだ…おっぱいきもちぃ……あぅ」

涎を流しながら口にする俺を前に、波江さんが欲情してくれているのが分かる。――嬉しかった。
胸、首周りと優しく愛撫し、徐々に下っていく波江さんの手の動きからも焦りが伝わってくる。ジンジンと痺れるように疼く下腹部の熱が、まるでそのときが来るのを知ったかのようにこぷりと蜜を溢れさせた。

「っはぅ……」

きゅっと指の腹で核を突かれる快感に腰が跳ねる。――ああ駄目、気持ちいい。俺はまるで餓えた動物のように手を伸ばし、部屋着の上から波江さんのモノに触れる。ズボンと下穿きを一気にずり落とし、じわりと熱を孕んだそれを取り出せば、波江さんはまだ慣れない感覚に眉を顰めた。

「じっとしてて。なめてあげる」

俺はシックスナインの体位で波江さんの上に跨ると、半勃ちの棹を掴んで口に含んだ。しゃぶったりレロレロと舌を這わせているうちに欲望は少しずつ膨らみ、硬度を増す。
波江さんはその刺激によって時々荒い息を吐き出しながら、俺の蜜壷に指を突き込む。処女の中を蠢く指の感触は少し痛かったけれど、愛おしい彼女によるものだと思えばそこまで辛くはなかった。

「…っ、」

「挿れるよ、」

俺は身体を起こすと出来上がった波江さんの性器を掴み、その上にゆっくりと腰を落としていく。
この体位の方が自由にできることを分かっていて、彼女も好きにさせてくれた。

「あ…ぁぁあ……う!」

初めて男を受け入れる中は随分と狭く、俺はずきずきと這い上がってくる鈍痛に固く目を閉じた。生ぬるい液体が内股の上をさあっと伝い落ちる。

「いたい…ぁ……」

「大丈夫?無理ならやめても…」

波江さんの手の平が俺のそれに触れて、ぎゅっと励ますように握ってくれた。
俺は嫌々と首を振る。やめたくない、こんなところで。温かい手の感触と幾ばくかの安心感に後押しされて、少しずつ内奥に向かって腰を下ろしていく。

「…あ、……くぁあ……!」

胎内を一杯に満たす雄の感覚に、息苦しさを覚える。
それでも俺は頼りない腰つきでゆっくりとピストンを開始した。くちゅくちゅ、血液と愛液と先走りの交じり合った生ぬるい液体が結合部を濡らしていく。
最初は痛いだけだった摩擦も、十分すぎる潤滑液のお陰か徐々にマシになってきた。

「あ…っ、あ、やだ、あ…ん……」

ちょうど中頃の敏感な部位をカリに擦り付けるようにすれば、苦痛以外の声が混じる。がむしゃらにその場所をすり続けると、握る波江さんの手の力が強くなった。

「…んっ、臨也……イきそう、かも」

俺は荒い息を吐きながらこくこくと頷く。

「は、ふはぁ……いいよ、俺のなか、出してぇ」

「……っ」

さらに何度か抽挿を繰り返せば、ざーっと一気に胎内へと熱い塊が注ぎ込まれて。

「う、波江……ひぁぁあぁああ!」

絶頂に叫んだその瞬間、目の前が真っ白になった。





20100824

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