SEXY PANIC:13
「ったく折原のやつ、どこ行きやがったのかしら…」
久々の池袋。
結局臨也のことが気がかりになり自ら探しに来てしまったことに内心少し腹を立てながら、私は当てもなく繁華街を練り歩いていた。
――ってあれ?私今変なこと考えなかった?
気がかりなのは臨也じゃなくて身体よ、身体。私の大切なボディが悪用されたらたまったもんじゃないもの!
しかしいずれにせよ、こんな雑多な街中じゃ特定の一人なんて見つかるわけがない。
――ま、あの平和島静雄なら別だけれど。
半ば諦めモードに入りながら見上げた空を、ふいに道路標識が横切っていった。
「…?――ん!?」
「あははは…全く最高だよアイツは!」
繁華街の裏側へ伸びる入り組んだ路地を通り抜け、ようやくシズちゃんを巻いたことを確認すれば自然と笑みが漏れた。
――ああ楽しい楽しい。次は何をしようか。
なんだかんだ言って波江さんは自分の身体にさほどの興味もないだろうし、こんなところまでわざわざ俺を連れ戻しに来たりしないだろう。
ということは今日は自由に――遊べるわけだ。
「ふふ…あ、そーだ!この際、誠二くんに会いに行くっていうのも面白いかもね…」
楽しい想像に胸を膨らませながら俯き加減に歩いていた俺は、背後から徐々に近づいてくる“その気配”に気付かなかった。
回り込んだ誰かが目の前に立ちはだかって初めて、ふと顔を上げる。
「ん…?あ、すいません……ッ!」
断って無難に脇を通り抜けようとした俺の鳩尾を、予想だにしない衝撃が走る。自身がグーパンチで殴られたのだと判ったときには、既に四方を見知らぬ男たちに取り囲まれていた。
「…ちょ、何なの…お前ら」
「よぉアンタ、平和島さんと親しいみてぇだなあ?」
「…は?」
成程こいつら――シズちゃんに喧嘩売ったんだな。
チンピラ風の男の一人に胸倉を掴み上げられながら、頭の中で最低限の状況を整理する。おおよそ、さっきの公園から後をつけられていたといったところだろう。
「クク…アンタみてえに綺麗な姐さんが怪我でもしたら、あいつぁどう思うだろうなぁ?」
俺は顔を顰めて男を睨みつける。
「何言ってんの?シズちゃんは別に何とも思わないよ」
「へえ…?ホントにそうかよ?」
男の指が俄かにスカートの下に滑り込んできて、反射的にうっと息が詰まる。
「やだ、ちょっと、何…!」
「アンタ、いい身体してんなぁ?」
胸の内がさあっと冷えていくのが自分でも分かった。
――今、俺どんな顔してるだろう…。
波江さんにはセックスなんて平気みたいなことを言ったりもしたが、あれは嘘だ。本当は全然慣れてない。裸で他人と身体を交えるという動物染みた下等な行為が、昔からどうしても好きになれなかった。気持ちのない淡々とした性交にはむしろ恐怖すら感じるほどで。
「ひっ!うわッ…やめろ、やめ――っ」
抵抗しようと力いっぱい動かした足を、追従する他の男たちに取り押さえられる。
ナイフをしまってあるコートのポケットに伸ばした腕も呆気なく拘束され、圧迫された骨がぎしぎしと軋んだ。――ああ、こんなもの、持っていたって単なる気休めで、腕力がなければ何の役にも立たないじゃないか。
「大人しくしてなよ…っと」
「やだ、やめてよ!?」
下着をずらす太い指の感触に吐き気を覚える。
陰湿な目で俺を見下ろし、小馬鹿にしたように笑う取り巻きたち。身体のこんな部位を何人もの人間に見られているのかと思うと、恥辱を超えた恐怖に足がすくんだ。
「――ッ、シズちゃんは俺が嫌いなんだ。だから、あ、ホントにこんなの…無意味だから、やだ」
強引に中に押し入ってくる質量に、気を抜けば泣きそうになる。
「やだ、やめてくれ……お願い…――ひゃあ!」
同時に陰核をこねくり回されればびくりと腰が跳ねた。
「おおっと、けど身体は正直だよなあぁ?」
男たちの下卑た哄笑が響き渡り、俺の精神さえもじわじわと追い詰めていく。――怖い。どうして。どうしてこんな目に遭わなきゃならないの?
「ひっ、あぁ…!やめろ、バカァ、やだやだぁ…っ」
くちゅくちゅと響く卑猥な水音とともに、奥の敏感な部分がずるりと刷り上げられる。こんな最低な奴に触られて感じるはずなんてないのに、鈍痛に混じる僅かな快感。やだ。なんで。なんでこんな、
「やめて…やめて、やめて――たすけて…許して、」
主格の男が性器を取り出す気配に精神の糸が切れ、全身ががくがくと震えだした。
既にプライドなんてどこにもなかった。完全に打ち砕かれたそれを眦からはらはらと溢しながら、俺は必死に懇願した。
「やめて、どうかそれだけは…お願い…だって、だってこれは…」
――この身体は波江さんの…波江さんのものだから…
その直後、後方で悲鳴に近い声が上がった。人が倒れるような質感のある音に、俺の周りにいた物たちも何事かと顔を上げる。
「おい、そこで何をしているのかな?」
止めようもない自身の嗚咽を覆い隠すように響いたのは、とても――とてもよく聞き慣れた声だった。
20100824
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